写生自在19 朝鮮時代
韓衣似あふ夫人やさくら餅 迦 南
金巡査椅子にひかへし種痘かな 〃
花梨に乳房たらせし水汲み女 〃
1句目、民族衣装のチョゴリを着ている上品な朝鮮婦人をデツサンしたもの。さくら餅とあるからといって、それを食しつつある女性と解釈するのは不適当。さくら餅は季題であってこれは取り合わせの句なのです。「桜餅」という題にこのような取り合わせをひねり出す才が出色なのです。「か・き・つ・は・た」を折り句に歌を詠めと言われて、即座に「唐衣きつつなれにしつましあればはるばる来ぬる旅をしぞおもふ」と詠んだ伊勢物語の故事を思い起こします。
2句目、金巡査は明らかに朝鮮人。その人が日本の巡査に取り立てられるには、それなりの事情があるのでしょうが、それが句の背景にあります。新1年生の種痘の場に立会人として控えている金巡査。恐らくにこにこと笑顔を作って子どもたちを優しく見守っているのでしょう。読者もつられ微笑をもらすことになります。この句で最も働いている語は「し」です。完了継続の助動詞「し」の働きで佳句になりました。
3句目、これはさくら餅の句とは違って実景と思います。若い朝鮮人女性に対する迦南の視線が優しいですね。季題「梨花」がよく利いて柔らかな佳句に仕上っています。