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経済メディアや一部日銀OBは、異次元緩和の結果、雇用が500万人増加し、新卒者の就職氷河期が昔話になったことを無視している。

2023年04月19日 13時02分20秒 | 全般

以下は昨日の産経新聞に掲載された田村秀男の定期連載コラム「経済正解」からである。
本論文も彼が希少な本物の経済記者であることを証明している。

米銀危機は異次元緩和継続の追い風だ
日銀の植田和男総裁体制がスタートした。
折しも勃発した米国の銀行危機は、植田日銀の異次元金融緩和政策継続路線の追い風になる。    
グラフは2019年末以降の米連邦準備制度理事会(FRB)および日銀の資産と、償還期間10年の米国債、日本国債の金利(利回り)の推移である。
中央銀行が資金を発行して市場から国債を購入すると資産が増える。
同時に市場に出回るカネの量が拡大する。
すると国債に代表される長期金利が下がりやすくなる。 
FRB資産は20年3月以降、急激に膨張を続けた挙げ句、22年9月をピークに縮小に転じた。
20年3月は中国・武渙発新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の起点であり、日米と欧州はコロナ恐慌防止のために、大型財政出動に踏み切った。
それに伴い発行された国債を中央銀行が購入した。 
国債金利はどうか。
米国債はFRBの大量買い上げが功を奏して金利上昇はしばらく抑えられたが、22年3月から急騰に転じ、FRBが購入を増やしても上昇が止まらない。
原因は高インフレである。 
21年に上がり始めた石油、穀物価格は22年2月24日のロシア軍忙よるウクライナ侵攻で上昇にはずみがついた。
他方で、バイデン米政権による財政支出拡大はコロナ下の景気を下支えすると同時にモノやサービスの需要を大いに刺激した。
FRBは22年3月から大幅利上げに転じたが高インフレは収まらない。 
金利と量の両面での超金融緩和政策の影響で国債金利(利回り)が低下すると債券の相場、すなわち売買価格は上昇する。
米銀の多くは債券相場の上昇をみて資金を債券投資に振り向け、売買益を大いに稼いだ。 
ところが、高インフレ局面に入ると債券の利回りは上昇し、相場が下がる。
FRBが利上げ、続いて資産の圧縮に転じると、債券相場下落に拍車がかかった。
米銀はたちまち収益減に陥った。
その先駆けが米西海岸シリコンバレー銀行(SVB)の3月10日の経営破綻である。 
グラフを再度見よう。
米国債金利は20年9月で0.87%だったが、22年末で3.616%である。
2.7%程度の幅の利回り上昇で、10年債の相場はざくっと計算して26.5%下落の恐れがある。
全資産のうち債券のシェアが大きいと、銀行はたちまち債務超過に陥る。
総資産は22年末で約2090億ドルのSVBは債券の売却損約18億ドルを被り、取り付け騒ぎになった。 
SVBの他にも金利上昇のために債務超過不安を抱える銀行は多いことから、預金者は疑心暗鬼になる。
SVBに続き、ニューヨーク州のシグネチャー銀行も経営破綻した。
バイデン政権は預金の全額保証に踏み切ったが、信用不安はくすぶり続ける。 
無理もない。
米銀全体の利上げによる債券の含み損は6千億~7千億ドルとみられ、5兆~6兆ドルの保有証券の1割以上を占める。
FRBは信用不安の広がりを防ぐためにはこれ以上の利上げには慎重になる。   

日本はどうか。
新型コロナ禍以降、日銀の資産増加速度はFRBに比べてかなり緩やかだ。
もともとデフレ圧力が強いために、輸入原材料のコスト上昇に伴うインフレ率が米欧に比べ格段に低い上に、16年9月からの長短金利操作(YCC)で、国債金利上昇も抑制されている。
YCCは国債金利の誘導目標を設定し、ゼロ%以下の短期金利に長期金利を調和させる狙いだ。 
試練に見舞われたのは昨年秋以降である。
米国との金利差拡大を背景に円安が急進行すると同時に、国債への売り圧力が高まった。
異次元金融緩和に批判的な経済メディアや一部日銀OBがここぞとばかり、YCCの打ち切りや修正をせき立て、投機筋がそれに便乗する事態になった。 
植田日銀新総裁は10日の就任記者会見で、マイナス金利やYCCを中心とする異次元金融緩和の継続の意思を明確にした。
ところが、経済メディアは相変わらず異次元緩和の「副作用」を問題視してやまない。
副作用とは、債券市場の機能や金融機関の収益低下などで、金融機関の立場に偏している。
異次元緩和の結果、雇用が500万人増加し、新卒者の就職氷河期が昔話になったことを無視している。 
米銀危機の勃発を機にFRBは追加利上げに慎重になっている。
景気減速を受けて米物価の上昇速度も鈍化している。
いずれもYCCなど異次元緩和をやりやすくする要因だ。
今春闘での賃上げとの組み合わせで、脱デフレの光明が見えてくると期待したい。       
(編集委員)=隔週掲載

 



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