以下は昨日発売された月刊誌「正論」の巻頭を飾る、兼原信克・元国家安全保障局次長と杉山大志キャノングローバル戦略研究所研究主幹の対談特集からである。
日本国民のみならず世界中の人たちが必読。
日本のみならず世界中の先進諸国は、これまでの自分達の愚劣さについて、暗澹たる思いを抱くはずである。
月刊誌「正論」は本稿を含む本物の論文が満載されていながら、何と!950円(税込み)なのである。
本誌も、本ほど安いものはない、を実証している。
活字が読める日本国民全員は最寄りの書店に購読に向かわなければならない。
何故なら、そうしなければ、貴方は日本と世界について無知蒙昧な人間になるからである。
見出し以外の文中強調は私。
以下は、日本は敗戦の結果GHQに解体されて一度、国としての生存本能が死んで、ボーっとした社会になってしまっています
の続きである。
有事に頼れる原発に注力を
兼原
ウクライナの状況を見て、国民は目が覚め始めたといえます。
しかし国会での論戦があまりに低調です。
安全保障について本質的な議論をする人がおらず、議員は次の選挙のことばかり考えている。
本当の問題はこれだ、と言ってくれるリーダーが不在なのです。
国民的議論を巻き起こす発信力があるのはやはり首相です。
安倍首相はその点、凄かった。
全左翼を敵に回しましたが、それくらいのガッツのある人でないと務まらないと思います。
杉山
発信力のある方はGXに熱心なのですよね。
河野太郎さんに小泉進次郎さん、そして菅義偉前首相も。
兼原
それが間違いだとは言いませんが…。
ところで長年、役人をやっていて思うことですが、経産省というのは特殊な官庁なんですね。
彼らの構想力・行動力は他の省庁にはないものです。
GXも、経産省内でどのような意思決定過程があったのか、私には分かりませんが、首相を担いで突っ走っておカネも確保してきて、どうにか形にしてしまった。
なかなか他の役所ではできないことです。
杉山
いま太陽光発電は全国各地で問題を引き起こしていますが、安全保障の観点から風向きが変わってきているように思われます。
兼原
安全保障ということでいえば2019年に秋田県の由利本荘沖の領海内で風力発電建設に向けた調査をするため、中国が公船を新潟港にまで派遣してきたことがありました。
「何だこれは」と大騒ぎになってすぐに追い返したのですが、「誰が連れてきたのか」と調べたら民間の調査でした。
そのころから経産省もだんだん安全保障について考えるようになってきました。
それにしても、杉山先生が指摘されたエネルギー安全保障の話は、まだ十分にテーブルの上に載っていません。
自衛隊の継戦能力の話ばかり出てきて、国家全体の継戦能力については議論が後回しになっています。
いくら自衛隊が頑張っても、「電気がありません、油がありません」で国民が千上がってしまったら、日本はお手上げです。
杉山
シーレーンが封鎖されて石油・天然ガスの輸入が途絶えたら、日本は非常に厳しいことになります。
その際には原子力発電所を全て稼働させることで、国内で必要な電力の2割程度は確保でき、加えて水力発電で1割程度は確保できるでしよう。
それを優先順位の高い、継戦能力に関わるところに回せるようにしなければ。
兼原
そういう議論を今からきっちり進めておかねばなりません。
そういう面倒なことは議論しない風潮がありますが、言いにくいことを言ってでも票を取ってくるのが本当の政治家です。
その点で岸田首相はー直接、お仕えしていないのであくまで印象ですがー逃げない人ですよね。
大きなものごとを決めるのには時間がかかりますが、進むべき方向は外していない。
防衛費に5年で43兆円という決断もしましたし。
原発の新増設も打ち出しました。
そして結構、頑固で、いったん決めたら動じない人だと思います。
杉山
原発の再稼働・新増設という英断はありましたが、その先にまだまだ決めるべきことが残っています。
一方でGXの導入に関しては、拙速なように思えてなりません。
そうした国の存亡に右かわる議論が、国会できちんと行われることを望んでいます。
(聞き手 田北真樹子/構成 溝上健良)