文明のターンテーブルThe Turntable of Civilization

日本の時間、世界の時間。
The time of Japan, the time of the world

二つの覇権主義大国が日本列島の領有を狙つて虎視眈々(たんたん)とその機会を窺つてゐるのに加へて、

2023年01月04日 15時31分16秒 | 全般

以下は今日の産経新聞・正論からである。

年頭にあたり 本年焦眉の国民的課題「国防」 東京大学名誉教授・小堀桂一郎
国家と国民の安泰堅持のため
年頭に当り一篇(いっぺん)の論策を公にする機会を頂いたとなると、目下の事の自然として本年の我が国にとつて何が最も重要な課題となるかについての思案となる。
その結果は現今の脆弱(ぜいじゃく)且(か)つ不安定な国際的政治環境の中で如何(いか)にして国家と国民の安泰を堅実に保持してゆくか、その難問題を国民一般が自分達自身の現実として考へてゆくべきだ、と言ふ以外にない。

昨年2月末に始まつたウクライナ事変が、解決も和平の兆すらも見えぬままに遂に年を越す事になつた。
異常事態も長びけば、どうしてもそこに不断の緊張の連続に対する疲労と倦厭(けんえん)の情が生ずる。
事変発生の当初はウクライナ国民の受難に対しての同情から結束して支援の手をさし伸べてゐた西側の自由主義諸国も、出口が見えぬままに続いてゐる紛争の常態化に面して、初めの義憤の情も緩む時が来る。支援の効果を自己の利害に照らしての計算も生ずる。

侵略戦争の当事者であるロシアの国軍も倦厭の情に駆られる点では同じ事で、さうなると戦闘行為の質が悪くなる。
軍隊同士が戦つて勝敗を決する会戦を避け、民間の生活施設の破壊や非戦闘員である市民の殺戮(さつりく)を以(もっ)て相手国に厭戦(えんせん)気分を起こさせようとする。

軍事行動の質の劣化は日本国民が大東亜戦争終末期の米軍の作戦で身に染みて体験した事である。
日本国の降伏を早めるために、米軍は昭和19年の末頃から、戦略爆撃との尤(もっと)もらしい名目の下、民生の破壊と国民の大量殺戮を目的とする全国60余の中小都市への絨緞(じゅうたん)爆撃を開始した。
国民は戦争とはさういふものだと諦観して黙つてそれに堪へてゐた。
しかしその極点に来たのが都市住民の鏖殺(おうさつ)を狙つた東京下町大空襲と広島・長崎への原爆投下である。

米空軍の日本国焼土化作戦は温帯に在る列島の春から8月にかけてであつたが、現時のロシア軍のウクライナ民生の破壊は厳冬期の現地での電力供給の停止・窮乏を惹起(じゃっき)し、住民の日常生活への致命的打撃となる。
戦中の物的窮乏を体験した世代はウクライナ国民の受難に只(ただ)心が痛むばかりである。

歴史の記憶を後の世代に
此処(ここ)で私共は、もしロシアがアイヌ人の保護のためといふ荒唐無稽の名目を掲げて北海道に侵寇(しんこう)して来た場合、昭和20年夏の樺太と満洲で同胞が体験したソ連軍の蛮行が、現にこの皇土の内部で反復再現されるであらう危険を真剣に肝に銘じておくべきである。

同じ脅威が列島の西南部、尖閣諸島を尖端とする沖縄県の島々にも迫つてゐる。
ロシアと同様、覇権欲に駆られた独裁者を国家元首とする中国の軍隊の質の劣悪は現に紛争中のロシア軍のそれとほぼ同様だと見てよい。

平成28年に設立された「通州事件アーカイブズ」は文献の蒐集(しゅうしゅう)を終り、『通州事件・目撃者の証言』を刊行してゐる。
昭和12年7月に河北省通州で発生した日本人居留民の大量虐殺事件の残酷な記録は、事実上読むに堪へない凄惨さに充満したものである。
もしあの国の軍隊が日本の領土に侵入して来れば、同様の残虐事件が必ずや起るであらうとの警告として不快を堪(こら)へて読んでおく方がよい。

台湾の国民は日華停戦後の1947年に生じた2月28日の弾圧事件の苛酷な記憶を持つ世代が少数派と化してゆくにつれて、中国の台湾籠絡政策の宣伝に惹きつけられる層が増えてゆく由である。此処でも半世紀余りの程遠からぬ過去の歴史の記憶を具体的に後続の世代に語り伝へておく事の重要さを指摘しておくべきであらう。

法の整備に大同団結を
二つの覇権主義大国が日本列島の領有を狙つて虎視眈々(たんたん)とその機会を窺つてゐるのに加へて、北朝鮮は我が国を侵略するだけの力量も野望も持たない代りに、日本などは海没して地図から消えてしまへばよいと言はむばかりの害意と憎悪に凝り固まつた国である。
彼の国が頻(しき)りに発射実験を試みてゐる大陸間弾道ミサイルにもし本当に核弾頭を仕組めば、日本国を破滅させてみせるとの暴言も現実化するかもしれない。

この様に国土の安全保障が複数の敵意によつて脅かされてゐる状況の中で我々はこの新しい年を迎へる事になる。
当然乍(なが)ら焦眉の課題が有事法制の整備とそれに実効あらしめるための防衛力の増強である。
法制の究極にあるのは言ふまでもなく憲法の改正であり、その眼目は9条2項の廃棄である。

所が憲法の改正を目標として先づ掲げてしまふと、年来の苦い経験が教へる通り、議論は国防理念を巡る神学的観念論や法的手続き論が先行して議論が一向に核心に近づいてゆかない。
今緊急肝要な事は、輿論(よろん)が、今回此処に述べた様な近い過去の痛切な体験を思ひ返し、その意味を再検討し、法整備の緊急必要性に大同団結する事である。
輿論による支援と促進があれば、現政権の中枢部にゐる人々もそれに応へる形で改憲への道を急がざるを得ないはずである。
(こぼり けいいちろう)


2023/1/3, at Kiyomizu-dera

 


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