今日は新聞休刊日なので、昨日のコラムを紹介します。
・ 出身地の偽装
・ スペイン内戦下、ドイツ軍の無差別空爆で多くの犠牲者が出たバスク地方の町の惨状を描いたピカソの大作「ゲルニカ」。マドリードにある絵画とは別にピカソの指示で制作された3点のタペストリーが存在する
▲原寸に近い大きさで、糸の色までピカソが指定したというからただの複製ではない。うち1点は群馬県立近代美術館が所蔵している。1955年に制作された最初の作品はロックフェラー家が所有し、84年に国連に貸し出された
▲翌年から安全保障理事会会議場の外に掲げられていたが、昨年2月にロックフェラー家の求めで返還され、姿を消した。今月、洗浄や保存処置を終えて元の場所にかけ直され、理由を知らされていなかった国連関係者をほっとさせた
▲このタペストリーが青い布に覆われたことがある。2003年2月の安保理会合で当時のパウエル米国務長官がイラクによる大量破壊兵器開発の「新証拠」を示す演説を行う直前のことだった。イラク空爆を準備していた米国への配慮ともいわれた
▲結局、「新証拠」も開発情報もウソとわかった。昨年死去したパウエル氏は「消せない過ち」と演説を後悔していたというが、「反戦の象徴」が隠された逸話はイラク戦争の不当性と結びつけて語り継がれている
▲安保理の機能不全が叫ばれて久しい。ウクライナ情勢の緊迫で新たな戦争の危機が懸念される中でのタペストリーの復帰は何かの因縁か。「ゲルニカ」に向き合えないような愚挙を繰り返すべきではない。
・ 東京の大雪は昔から世間を騒がせてきた。戦前の記録で有名なのは、1936年2月23日の積雪36センチである。本紙の前身、中外商業新報も社会面のほとんどが雪ニュースだ。「帝都の交通機関は雪に弱い」「各私鉄運休」「ポイントを守れ! 東京駅必死の焚火(たきび)」――。
▼80年以上も前から、似たような光景が繰り返されてきたわけである。そして関東のこうしたドカ雪の原因もまた同じ。いわゆる南岸低気圧だ。このと...
・ 幼いわが子が安らかな寝息を立てている。りんごの色をした頰に、父はこう語りかけた。〈奈々子/お父さんは お前に/多くを期待しないだろう〉。詩人の吉野弘さんが長女に贈った『奈々子に』の一節である。
▼詩は続く。〈ひとが/ほかからの期待に応えようとして/どんなに/自分を駄目にしてしまうか/お父さんは はっきり/知ってしまったから〉。だから自分自身を大切にしなさい―と。「奈々子」にわが子の名を重ね一語一語をかみしめた親御さんもおられよう。
▼国を代表して戦う人ゆえ、〈ほかからの期待〉に応えようとすることは仕事の一つなのだろう。大きな飛躍のためには、批判の北風に耐える時間も要るかもしれない。そうだとしても謝るべき「罪」がどこにあろう。SNSに悲痛な投稿をしたその人が気に掛かる。
・ 昔の子どものクイズに「鉄一トンと綿一トン。どちらが重いか」というのがあった。鉄と答えたくなるが、どちらも一トンなのだから同じ重さである
▼寒さはちょっと違う。気温が同じセ氏一度でも風や湿度によって人の肌の感じ方は異なる。体感温度によるもので同じ一度でも風が強ければより寒く感じる
▼この問題を気温にたとえれば、どうやら寒くはなっていないらしい。昔に比べれば、過ごしやすくなっている。なのに日本人はより寒さを感じているそうだ。何の話かといえば治安である
▼警察庁のアンケートによると治安が悪くなったと回答した人は約六割に及ぶ。実際、昨年、全国で発生した刑法犯認知件数は戦後最少記録を更新したにもかかわらずである。体感する治安が悪い
▼世界的ベストセラー『ファクトフルネス』によると人間は世界を悲観的に見る傾向があるらしい。今、起きている悪い出来事ばかりをニュースで見ていれば、誰でも不安を覚えるようになるという。逆に過去は美化されやすく、結果、世界は悪くなっていると感じるそうだ
▼治安悪化は錯覚か。どうも素直にうなずけぬ。電車内で刃物を振り回すなど理解しにくい事件や意見の異なる者を決して許さぬ風潮を思えばやはり寒さにコートの襟を立てたくなる。<合点して居ても寒いぞ貧しいぞ>小林一茶。治安の悪さを体感させる風の正体を知りたい。
※ 面白いですね。
中日では、『ファクトフルネス』に書かれた「人間は世界を悲観的に見る傾向がある」ことを取りあげています。
実際にテストをやると、私自身が悲観的な数値を選んでいました。
なぜ?
マスコミ報道です。
ファクトを見ていなかったのです。