今年の紅白に石川さゆり出場。
なぜか思い出すのは「天城越え」。
そして清張の「天城越え」は40ページほどの短編小説。
この小説は本当にタイトルが独り歩きしている。
歌と小説は中身まったく関係なし
それくらい秀逸なタイトルだということだ。
とにかく言葉の響きがすこぶる良い。
カッコいいのだ。
伊豆半島の鬱蒼とした森の中に心臓破りの峠の坂と暗いじめっとしたトンネルも思い浮かんでくる。
現代は整備され自然美しいツーリングコースになっているのだろうが。
物語も本当に不可思議。
これは清張が人間の心の心境ほど不可思議なものはないというメッセージと感じる。
主要登場人物も4人のみ。
家出少年と温泉旅館に勤めていた酌婦と、どこか暗い影を落とす土工の流れ者と事件を追う刑事。
刑事以外みんな「ワケアリ」人間。
ジメジメドロドロした人間関係。
すごく面白くてすぐ読めるからおススメ。
清張小説の底流には貧乏の苦汁と真っ暗さが際立ている。
天城峠のじめっ暗いトンネルを抜けると異国に入った感覚、行きはよいよい帰りは恐いを地でいくヒトコワ世界を削ぎ落した簡潔な文体で描き切っている。
清張の傑作には短編が多い。映像化されるのも敢えて書かなかった余白が想像の余地になっているからだ。
さすが芥川賞作家。
怨念と憎悪を柱にしているのは間違いない。
そしてこの短編を書いたキッカケともいえる川端康成の「伊豆の踊子」への返答篇といえると想像するととてもロマンがある。
赤貧洗うがごとしで生きて抜いた清張には育ちがよく華やかな経歴の川端康成がどう映っていたのか。
怨念と憧れ。自信とコンプレックス。色んな色が混じり合った世界が渦巻いている。
私自身のなかにある暗い部分がその世界に囚われるのだ。