*  *  *

 政府サイドはピリピリ。世間では「新しい皇室」への期待感――それが「愛子天皇」というキーワードだ。

 オランダ、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、ベルギー。男女同権が根付く欧州では、王室の王位を男女に関係なく継承させる国が増えた。オランダでは、愛子さまと同世代のアマリア王女が将来、女王として王位を継ぐ。ジェンダーフリーの価値観が自然なものとして浸透するなか、日本でも「愛子天皇」への期待は高まり続けている。

 世間と温度差があるのが政府サイドだ。

 皇室のあり方をめぐる政府の有識者会議は、岸田文雄内閣のもとで、「女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持」することと「旧宮家の男系男子の養子による皇族復帰」について検討を重ねていた。しかし、そこでは愛子さまの話題はタブーといった空気であった、と会合に参加した人物は振り返る。

「会合の場で、愛子さまのご活動について意見が出される度に、『皇位継承問題に関わることは……』と遮られた。愛子さまに関する話題は、タブーといった雰囲気でした。世間では『愛子天皇』といった話題が熱をもって語られている状況に対して、ピリピリしていたのでしょう」

 現在の皇室典範にのっとって、皇嗣である秋篠宮さまが皇位継承順位1位、長男の悠仁さまが2位だ。有識者会議の報告書にもはっきりと、「今上陛下から秋篠宮皇嗣殿下、次世代の悠仁親王殿下という皇位継承の流れをゆるがせにしてはならない」と書いてある。

 悠仁さまが将来天皇となることにゆるぎはない。政府サイドや一部の勢力が、愛子さまにかけているのは別の期待だ。

 2022年1月、先の有識者会議の最終報告書を受けたのち、政府は各党に皇族の減少について議論することを求めた。

 有識者で「旧宮家の男系男子の養子による皇族復帰」が議題に上がっただけに、関心が高まっているのが旧宮家の存在だ。

 同じ22年1月、旧皇族である伏見宮家の24代当主の伏見博明氏(90)が、オーラルヒストリーをつづった著書『旧皇族の宗家・伏見宮家に生まれて』を出版した。著書の中で伏見氏は、皇族への復帰についてこう述べている。

「天皇陛下に復帰しろと言われ、国から復帰してくれと言われれば、これはもう従わなきゃいけないという気持ちはあります」

 旧皇族の復帰。それは、有識者会議が検討課題としてあげたように、「養子」といった形での復帰を念頭に置いた発言だと思われる。

 さらに踏み込むならば、「愛子さまのご結婚相手」としての旧宮家の存在だ。安倍晋三政権の当時、旧皇族から愛子さまと年の近い「お相手」をリストアップしていた。旧皇族との結婚によって男系を維持するという意味である。

 皇統を維持は確かに重要な命題だ。一方で、いまの時代に「政略的な結婚」が国民に受け入れられるのかという疑問もある。特に、愛子さまをはじめとする女性皇族自身が、旧皇族との結婚という考えに対してどう感じているのか。その胸の内は、国民には聞こえてこない。

 他方、ご自身の「家」と「家」の関係を断ち切り、本人の意思を貫いた眞子さんと小室さん結婚では、予想外のトラブルが露わになり皇室への反発を招いた。

「あくまで、ごく自然な形で、ということです」(当時の政府関係者)

 皇室制度に詳しい八幡和郎・徳島文理大学教授も、こう話す。

「もちろん、ご本人に意思がないのにお見合いをさせるような話ではないと聞いています。しかし、旧皇族はどのような形でも話があれば真剣に受け止める気持ちはあると思います。さらに言えば、政界有力者も含めて具体的に愛子さまとの結婚を打診してみては、と意見を口にする方もいます」

 自然な流れで成立すればよいし、そうでなければ無理はしないという程度だという。

 いずれにせよ、悠仁さまが天皇に即位することが前提だ。

「愛子さまと旧宮家の結婚は悠仁さまの次の代に備えたひとつの案です。そもそも悠仁さまのご誕生以来、政府も宮内庁も、『愛子天皇』を想定してはいなかったはずです。仮にそうした案があるならば、愛子さまへの帝王教育がなされていなくてはいけない。しかし、知る限りそうしたものがなされた形跡はありません」(八幡教授)

 皇室を支えてきた保守系の支持層は、「男系で存続してきた」ことにこそ意味がある、と主張する。他方、世界の王室は次々に、男女に関係なく継承者を決めている。

 新旧の価値観と思いが混在する狭間で、皇室はどのような道を歩むのだろうか。

(AERA dot. 編集部・永井貴子)