病名の告知を受けてから5年が過ぎた。
まぁ他人事なんでしょうけれど、クリニックの医師は淡々と「癌ですね」
「紹介状書きますから」と云われてから、もう5年が過ぎたのだ。
告知された途端、ずーっと遠くにあった人生の地平線が一瞬で手前に引き寄せられ、手の届く所に来たのだけれど不思議なことに未だ生きている。
家族に「癌だった」と云った時、誰も涙を流さず「手術するんでしょ」と軽く云われ、(やっぱり他人事なんだ・・・・・)と思った。
死ぬ前に根室へ行って、デカイ蟹を食べようと思った。もちろん一人でだ。
涙を流さなかった奴らには食べさせないと決めたのに、まだ食べに行っていないことを思いだした。
今日は手術を受けた病院の定期検査日。
受付の機械に診察券を入れると患者番号の紙が出てくるのでそれを持って受診科へ。
採血室の看護師さんに呼ばれ、確認の為に名前と生年月日を云うのだが、「蟹座です」なんて余計な一言を加える。
私の横に座った患者さんを担当していた看護師さんが、「蟹座なら7月生まれですね」と云ったので「蟹座の方と相性が良いのですね」と云ったら無言。
だから「ゴメン、相性が良くなかったようで・・・・・」と云ったら私に注射針を刺そうとしていた看護師さんが震えながら笑いを噛み殺した。
採尿カップを渡され「出ますか❔」と訊かれたので「プロの患者は適量を溜めて来ているので大丈夫」と胸を張る。
後は結果が出るまで約1時間待ち。
診察室へ入り数値を説明する先生から「頑張っていますね」とお褒めの言葉。
「そりゃ、先生の指示をきちんと守る模範的な患者ですから」とここでも胸を張る。
人生の地平線が、少しだけ遠去かった。