朝は目覚まし時計を使わない。
定年退職してからは、目覚めたときが朝。それが天国。
だから、早く寝る必要も無い。
働くと云うのは、自分の時間を削って売っていたようなものだ。
ポケベルなんて、トンデモナイものを発明したヤツがいて、それを持たされてからはさらに「地獄の闇」が深くなった。
久しぶりに回転寿司に行こうと云って家族で席に座った途端にピーピー鳴り、寿司を一つ口に入れただけで会計し店を飛び出たことがある。
その寿司店での滞在時間最短記録を持っているのは、間違いなく私の家族だ。
退職後、呼び出されることは無くなった代わりに当然家での滞在時間が増えた。
常に顔を合わせる夫婦。顔から笑みが消えたのは家内が先だ。
絶対に私では無い。
「お父さんは良いねぇ、好きな時間に起きて好きに過ごせて」と嫌味を云われる。
「お母さんも目覚まし時計なんか使わずに好きな時間に起きたら?」と云うのだが
「私は掃除や洗濯をしなければならないから」と云う目は三角だ。
私は、全く煩く云わない。掃除なんか2日に一度でも良いし3日に一度でも良い。
学生時代に洗濯をした記憶は一度しかない。
寮に2台あった洗濯機は、いつも誰かが使っていたしコインランドリーなんて便利なものも無かった。
憶えているのはバケツに水と洗剤と洗濯物を入れ、手でクルクルしていたこと。
洗濯機だってクルクルするだけなのだからと云う考えだ。
もし女性から「抱いて」と云われたら相当焦っただろうと思うが、そんなことも無く平穏な毎日を過ごしていた。
昨日も今日も明日も明後日も、同じパンツを穿いていたんじゃないかと思うのだけれど記憶は無い。
洗濯物が溜まってからまとめてやった方が経済的だ。
それに最近の洗濯機は勝手に洗剤や柔軟剤を入れてくれる。
洗濯は機械がしているのだ。
でも、そんなことを云うと「地獄の闇」はさらに深くなる。
「洗濯なんか毎日やらなくても・・・・・・」と云っただけで雷が落ちた。