この本も多分朝日新聞の書評を見て予約したと思う。
「とんこつQ&A」 [著]今村夏子
話の続きが気になるから読み進めているのに、終わらないで欲しいと思うことがある。
ものすごい矛盾。だが、それが読書の愉悦だろう。本作に収録された四編にもその愉悦がある。
しかもおもしろいだけでなく、なんだか心がざわざわする。それがたまらない。
4つの短編が収録されている。
1.「とんこつQ&A」
中華料理店で働く今川さんの日常。今川さんとぼっちゃん、大将、おかみさんという人物の中華料理店の日常が描かれている。
2.「噓(うそ)の道」
ある兄弟が老婦人に親切で道を教える話。しかし、それが意外な結末を迎える。
3.「良夫婦」
タムと友香里、副所長(友香里のだんな)、テーマは最初は虐待、その後サクランボ、昇格、引っ越しなど。
4.「冷たい大根の煮物」
同じプラスチック部品工場の木野さん、芝山さんの日常。お金の貸し借りの話題。
という具合で、日常のほのぼのとした話題なのだが、結構シビアなことが起こるのだ。それがサウペンスとは言い難いが、面白い。
この作家の他の作品も読んでみたくなった。
久しぶりに小説を読んで衝撃を受けた。
『コンビニ人間』つながりでこの書名を知り、夕方に図書館で偶然見つけてなにげなく手に取ったので油断していた。
会話主体の文章や、会話の中のちょっとしたほんのりとしたユーモアや暖かさに気を許してしまったのだ。
普通の良い話だと思って読んでいたら、突然、目の前に奈落が開き、自分もまたそこに吸い込まれて落ちていくようだ。
もし地獄というものがあるならば、これは今風の《地獄》を描いた小説なのかもしれない。いまもし宗教家に「そうなんです。
現世とは地獄なんです。だから神の国で救われましょう」と勧誘されたら、そのまま入信してしまうかもしれない。
Amazonの紹介や書評も載せておきます。
真っ直ぐだから怖い、純粋だから切ない。あの人のこと、笑えますか。
“普通”の可笑しみから、私たちの真の姿と世界の深淵が顔を出す。
大将とぼっちゃんが切り盛りする中華料理店とんこつで働き始めた「わたし」。
「いらっしゃいませ」を言えるようになり、居場所を見つけたはずだった。あの女が新たに雇われるまでは――(「とんこつQ&A」)
姉の同級生には、とんでもない嘘つき少年がいた。
父いわく、そういう奴はそのうち消えていなくなってしまうらしいが……(「嘘の道」)
人間の取り返しのつかない刹那を描いた4篇を収録、待望の最新作品集!
今村夏子の作品は芥川賞をとった「むらさきのスカートの女」以来、「こちらあみ子」「あひる」「木になった亜紗」と読んできて今回で5冊目である。
「とんこつQ&A」はほのぼのとした展開で、最後は不気味な終わり方をするという著者特有のストーリー展開の話で、とにかく飽きずに読み進めることができた。何となく「あひる」を連想させる話だった。
認知科学の中国語の部屋を一瞬連想させたが、それは的外れな指摘なのかもしれない。
最後の終わり方が少し極端な感じでやりすぎ感があったので、もう少しやんわりとしたエンディングにすればなおよかったかなとも思う。でもとにかく著者の力量はすごいなと単純に思った。
「嘘の道」はひたすら怖く後味が悪かった。
「良夫婦」は最初はその設定に違和感を持っていて期待していなかったのだが、主人公が自分の抱える重大な問題に気づきつつも夫の助けによりそれが日常生活の中で忘却されていく過程がリアルに描かれていてとてもよかった。
「冷たい大根の煮物」は特に善人も悪人も出ずに、この4作品の中で唯一ポジティブな終わり方をする作品である。
芝山さんが意図的に借金をしたのか、またガス代を節約する意図によって主人公の家を使ったのかはぼかされているのだが、結局それを契機として主人公は自炊を始めることになった。
それが良いとも悪いとも言わずにさらっと描かれているのがなんとも言えずによかった。結論としては「良夫婦」「冷たい大根の煮物」の2作品が高評価であった。ともかく、今後も今村作品を追っていきたいと思わせる内容であったのは間違いない。