硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「スロー・バラード」

2020-10-02 17:15:52 | 日記
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「後ろ髪ひかれ隊っていう名前、なんかダサない? 」

「おっ、おおっ。けど、俺は『うしろゆびさされ組』のファンや」

「へぇ~。『後ろ指さされ組』もなんか、ダサない? 」

「おっ、ファンとしては、聞き捨てならんな」

「マジでファンなんだな。で、『後ろ指』の誰がいいの? 」

「ゆうゆや」

「あ~。分かりやすいな。久美ちゃんに似てるもんな」

「痛いとこつくなぁ~。そう言うようじは誰なん? 」

「俺? 俺はぁ、そうだなぁ。アイドルはわからないけど、最近は今井美樹かな? 」

「誰?それ? 」

「女優さん。ホンダ・トゥディのCMに出てる子だよ。この2年テレビ見なかったからアイドルはさっぱりわからない」

「うそやろ! けど、それは、それですごいな」

「それが俺」

「かっこええなぁ」

「まあな。ところで、仕事忙しい ?」

「おおっ、まぁまぁやな。ようやく流れ作業になれてきたとこや。先輩がヤンキーやで、厳しいわ。」

「ヤンキーって? 」

「ビーバップハイスクールみたいな人がゴロゴロおるわ。パンチパーマとかリーゼントで作業帽がきちんと被れやん人がほとんどや」

「なんか、それって、高校の時とあんまり変わらんな」

「そうなんさな。課長さんや部長さんは、サラリーマンていう感じなんやけど、現場仕事はそんな感じや」

「大変だな。けど、給料きっちりもらえるし、羨ましいよ」

「そやなぁ。そこはええかなぁ。車もパーツも買えたしな。ようじはさぁ、大学行って何勉強するん? 」

「農学」

「ええっ、農家継がんのに、農学て」

そう言うと、ようじはなんかうれしそうになった。

「へへへっ。そう思うだろ。けど、そのイメージも覆すぜ」

「おおっ。なんか、かっこええなぁ」

「そうだろ。農学って言うのは、農業だけじゃないんだぜ。例えば、この先、人口は増えづづけるけど、作り手は減ってゆく。そうしたら、自給率は下がるのは何となく予測できるだろう。今は、食べる、飲むって、当たり前に出来てるけど、そうなれば、その当たり前の事が出来なくなる可能性が出てくる。それと、何かのきっかけで・・・、例えば、気候変動。たとえば、日照りや日照不足、温暖化、寒冷化してしまっても、同じことが言えと思う。もちろん、根底には今の農林水産業の維持を考える事があってのことだが、もしもの時に、食べる、飲むに困らないように、準備しておくことも、これからの農学の役目だと思ってるんだ」

「なんか、かっこええなぁ。俺そんなこと思た事もなかったわぁ」
 
 ちょっと会わん間に、目先の仕事や遊びしか考えてへん俺に比べて、ようじは、とんでもなく先の事を考えるようになってたんやなと思て、変なもんやけど、今までにはなかった、複雑な気持になった。