硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「スロー・バラード」

2020-10-04 16:59:46 | 日記
                      19


「おまえら!そこを動くな! 」

 怒鳴ったポリさんは、駐在バイクから飛び降りて、俺たちに向かってダッシュしてきた。反射的に『これは捕まる』と思た俺らは、食べてた菓子やジュースをそのまま放り出して、なにを思たか駄菓子屋の前に広がる、刈り終わったばかりの田んぼへ駆け出した。
どこまで逃げても姿を隠すとこがない田んぼやから、逃げ切れるわけがない。今考えたら、笑い話にしかならんけど、俺らは散り散りになって無我夢中で逃げた。

「逃げるなぁ! 」

 ポリさんの怒鳴り声に、誰が追っかけられてるのか気になって、後ろをチラチラと観ると、出遅れたキヨヒコを、追いかけているのが見えた。俺は「キヨヒコごめんな」と思ってると、切り株に足を取られて思いっきりこけて、御用になってしもた。
俺らは、そのまま家に帰ったけど、みんな顔を見られてるから、直ぐにそれぞれの家に電話がかかってきて、親と一緒にあの交番に集まることになってしもた。

「けど、あれって、誰が通報したんだろう」

「ほんま、誰なんやろな。せっかく直した単車ほって、逃げたもんな。けどさ、ポリさんって、2コ下の北口くんのお父さんやもんな。」

「そうそう。結局、逃げ切った奴の家にも電話かかってきて、あそこの交番に全員集合したな。」

「そうそう、それで、皆で家裁行きな」

「ところで、あのヤマハはどうなったかしってる? 」

「ああっ、あれな、没収や」

「没収! 」

「ポリさん持ってって、それから分からんわ。小遣いはたいて直したのになぁ」

「おおっ、もったいなかったな」

「けど、それが青春や! どやっ、上手い事まとめたやろ! 」

助手席のようじは、大笑いした。