出雲の国 国始まりの地 神が集う場

日曜日に「nobie」のライブをやった。彼女の節目になる誕生日ライブ。
お客さんもアーティストも微妙な心境な時だけど、これまでにない一体感
にあふれ、すごくよかった。 伊藤志宏くんのピアノのいつものように
さえ渡り、初登場の小森耕造くんのドラムも、素晴らしかった。その後に片付けをして、深夜に旅にでた。

日本のこころのふるさと、出雲地方を通って東京にかえってきた。
島根には「温泉津温泉」（ゆのつおんせん）という不思議な温泉がある。
石見銀山が栄えたころに、にぎわった港にある。津とは港という意味だ。ぼくは、ここの温泉がけっこう気にいっていて、数えられないくらいいった。ここには古い共同湯があって、その前にある小さな駐車場に、３００円払って、入る。

中には、浴槽がふたつある。「あつい湯」と「ぬるい湯」だ。日によって
地球の機嫌が違うように温度も違う。でもどんなにこちらの気合がのっていても
「あつい湯」にはいれたためしがない、くらい熱い。駐車場で、「特等席」をゆずってくれた長老の人といっしょに、ぬるい湯に入りながら、四方山話をする。２割くらいは、方言が理解できないけど、裸と裸で会話していると、なんだか通じてくるのが
不思議だけど、いい。大震災の話も当然した。
「東京に帰る前に、あつい湯にはいっていきや」と長老がいうので、挑戦してみた。
５秒くらい（２秒？）肩までつかって、「おさきに」といってあがった。
長老が「気をつけてな」と、「あつい湯」からたって、フルチンでチョコンと頭を
下げた。どこでもある風景だけど、３・１１以降は、日本人のこころのきずなが
強くなったことを感じる。こちとらも、フルチンで敬礼。

夕方の国道９号線をひたすら走る。時間に制限のない「旅」をするなら、この
道をひたすら走りながら、旅をしてみたい。「日本人のこころのふるさと」が
あまたある。この地は、旧暦１０月は「神有月」という。世間では神無月。
日本中の神さまが、この季節に出雲に集まって、いろいろな会議をする。
きっと、今年は、震災の後の復興について、原発や、低エネルギーな生活に
もどす話や、新しい国のリ-ダーをどうしよう・・・などと会議をするのだろう。

夕方６時半くらい、静かな日本海に夕日が沈むころ、これまたお気にいりの
カフェの前を通る。今回はゆっくりできないので、通りすぎたけど、後髪を
神さまがひっぱった気がしたので、Uターンして、「海の家」を改装してつくった
「ただ海を見ながら、ぼーっとコーヒーを飲む珈琲屋」の海が見えるカウンターに
座って、珈琲を飲む。うちと同じく、グリップのない汲みだし茶碗に入れて
でてくる。そして、もう一杯ぶんを白いホーローのかわいらしいポットに供されて
丸い折敷にのせてでてくる。それを飲みえるころには、夕日が日本海に沈む。
海はあばれると怖いけど、静かな時は、こちらのこころもなぎになるくらいおだやかな
包容力を持つ。きっと今回はたくさんの命を一瞬にしてもっていったけど、「神の計画（はからい）みたいなことも、きっとあるんだと信じたい。

東名高速ののぼりは、めちゃくちゃ混雑していた。九州のナンバー、中国地方や
大阪・京都・名古屋のナンバーのトラックたちが、賢明に東京に、そして東北に物資を
運んでいるんだと思う。これまで味わったことがないほど、混雑していたけど、
運命共同体というか、やはり、みんなこころはひとつ、なんだと痛感した。

明日から通常営業。明日は「薩摩琵琶とピアノのライブ」があるので
４時に閉店。ももちゃんが、琵琶法師のように、語り部となって、
演奏してくれる。鎮魂なライブになると思う。

『平家物語』の冒頭の有名なとこ。

祗園精舎の鐘の声、
諸行無常の響きあり。
娑羅双樹の花の色、
盛者必衰の理をあらは（わ）す。
おごれる人も久しからず、
唯春の夜の夢のごとし。
たけき者も遂にはほろびぬ、
偏に風の前の塵に同じ。

この世は、無常ではかなきものばかり。でも、だからこそ、
つかの間の旅の途中に、いろいろな素敵な出会いとかわかれ
とかがあって、たのし。悲しいくらいたのし。