“えっ? なんのことなの! あたし、そんなこと話してないわ。寄付って、どういうこと?”
思いもかけぬ寄付の話に、思わず武蔵の顔を見やった。
「いやいや、そうでしたか。村長選のことは知りませんでした。
小夜子が生まれ育った地です。感謝の意味を込めてのことでしたが。
そりゃいい、結構なことでした。加藤という男がGHQの中にコネを持っています。
お困りのことが起きましたら、どうぞ遠慮なく。
お義父さんからご連絡もらえましたら、すぐに対処させます」
あくまで茂作を前面に押し立てる武蔵に、引きつった笑顔で感謝の言葉を述べる二人だった。
「ほうほう。有難いお言葉をありがとうございます。中央にコネが有る無しでは、えらい違いですで」
「ほんに、ほんに。村長は佐伯家を後ろ盾にしとりまして、源之助という官吏を使っておりまして」
「ああ、逓信省の保険局の局長さんですね。事務次官の権藤さんに電話番号をお聞きしましてね。
この間、ご挨拶をさせてもらいました。中々に切れ者だとお噂を聞きましたが」
“事務次官さまに通じてるのか? こりゃ凄いわ”
“茂作なんぞを通せと言うことか。茂作に頭を下げろと言うことか。中々に喰えぬ男じゃとて”
当の茂作は、そんな話などまるで耳に入っていない。
“小夜子を嫁に出さにゃいかんのか。やっぱり帰って来ぬのか。
正三の馬鹿たれが! あいつがしっかりしておれば、小夜子はここに帰って来たろうに。
タキや、タキや。どうしても小夜子を手放せばならんのか?
わし一人になってしまうのか? いっそわしも、タキの元に行こうか?
どうじゃ、迎えに来てくれんか? 夜寝てそのまま、というわけにはいかんかの”
がっくりと肩を落としている茂作に、小夜子が優しく声をかけた。
「お父さん、今までありがとうね。お嫁に行っても、小夜子は小夜子だからね。
帰ってくるから、きっと。
今まではいろいろと忙しくて帰られなかったけれど、これからはたくさん帰ってくるから」
「そうですよ、お義父さん。わたしは中々来れませんが、小夜子には帰らせますから。
出張がちなわたしです。その折には夜子に寂しい思いをさせてしまいます。
お義父さんの所にお世話にならせてください。
それでたまには、お義父さんに来てもらいたいですよ。
なあ、小夜子。どうだ? 親子水入らずもいいだろう」
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