「由香里のお母さんはねえ、すごいんだよ。服を着てるから分からないでしょうけど。
由香里もね、大人になったらきっとああなるんだから。
麻由美なんか、目じゃないよ。だからタケシさん、期待しててね」
目を輝かせながら、熱っぽく由香里は訴えた。
麻由美に対するライバル心が、彼にも手に取るように分かった。
やっと彼にも、麻由美とは偶然に出会ったのではないことが分かった。
思わず、苦笑する彼だった。
「 . . . 本文を読む
「着いたぞ、由香里ちゃん」
彼の声に起こされた由香里は、思わず歓声を上げた。余りの声に、バス車内のあちこちから、どっと笑い声が起きた。顔を真っ赤にしながら、由香里は逃げるように外に出た。 . . . 本文を読む
言うが早いか、由香里はカウンターに向かった。
由香里は、フローズンタイプとバニラクリームを両手で大事そうに運んできた。
そして又、「半分ずつね」と、彼に確認をする。苦笑いをしながら、彼は頷いた。
小降りになっていた雨が激しくひと降りすると、程なく上がった。
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ハンバーガーを頬ばりながら、由香里は一人しゃべり続けた。
麻由美の羨ましがった様を、身振り手振りを交えて話した。
あまりの誉め言葉にこそばゆく感じる彼だったが、悪い気はしなかった。
余程に空腹だったのだろう、彼の食べかけのバーガーまでも口にした。
「ねえ、由香里のフィッシュとタケシさんの照り焼きと交換しようよ」
「いいよ、いいよ。あげるよ」
「だめえ! 由香里の食べかけも食べてくれなくちゃ。
ジ . . . 本文を読む
やっとの思いで解放された彼は、「彼女に、よろしくねえ!」と言う声を背にして、由香里の元に戻った。
由香里は上機嫌だった。
「いやだあ、彼女だって。ククク、デートだって分かるんだね」
「そうだな。じゃ、出ようか」
彼としては、一刻も早くこの場を立ち去りたかった。
何かの拍子に貴子が現れるのではないのか、と気が気ではなかった。
万に一つもあり得ないことなのだが、とに角デパートから離れたかった。
「 . . . 本文を読む
結局、大きな花柄のワンピースを由香里は手にした。
彼はホッとした表情で
「うーん、良いよ。凄く似合ってる。ますます可愛らしくなった」
と、手を叩いて褒めそやした。
「そうだね。今の由香里には、これが一番だよね」
満足そうに頷きながら、由香里はレジに進んだ。
彼は、由香里を制して支払いをすることにした。
「ご褒美だ。テストを、頑張ったね」
「やったあ! じゃあさ、由香里にもお兄ちゃんにプレゼン . . . 本文を読む
サングラス姿の彼に、由香里は目を丸くした。
「どうしたの、それ。でも、かっこいいよ。麻由美も『ステキね』って、言ってた」
「だろう? 由香里ちゃんがお友達に僕のこと、自慢してるみたいだったからさ。大人の雰囲気を、醸し出そうと思ってね」
まさか、別れた恋人がこのデパートに勤務しているから、とは言えなかった。
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強い陽射しの下、由香里はウキウキとした気分で早足で歩いた。
ともすれば、彼を置き去りにしてしまう程だった。
「先生ぃ、早くう。遅れちゃうよー」
「大丈夫だよ。まだ、時間はあるよ。二十五分のバスなんだから」
彼は腕時計で確認してから、由香里に答えた。
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