じっと聞き入っていた孝男が
「父さん。なにか欲しいものはあるかい。食べたいものを言ってよ、用意するから」
と、声をかけた。 . . . 本文を読む
「じいちゃん、じいちゃん」
ほのかが飛び込んだ。枕元には道子とそして次男が座っていた。
「おじいちゃん。ほのかが来たよ」
次男が声をかけると、閉じられていた目がうっすらと開いた。穏やかな表情だった。 . . . 本文を読む
その夜久方ぶりに自宅に戻ったほのかを待っていたのは、腫れ物にでも触るが如きの孝男だった。
「お母さんは?」
「母さんは、じいちゃんのところだ。遅くならないうちに帰ってくるさ。
それよりどうだ、お父さんの銀行に入らないか。テラーの一人が産休で席が空くんだが」 . . . 本文を読む
「贖罪の気持ちがあるのじゃない。キチンと見送れなかったことが、おばあさんに申し訳ないという思いが、心の中に残っているんじゃないの。だから、どんなことにも“逃げちゃだめ!”と思っているでしょ。入居者さまからの要望には、すべて応えなくちゃという気持ちが強すぎるのよ」 . . . 本文を読む
主任介護士がため息を吐きながらも、しかし目は笑っていた。
「にあんちゃんにも困ったものね。でも良い子なのよねえ」
「すみません。にあんちゃん、なにかミスをしましたか。あたしから注意しておきます」
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