「すまない」一時の激情から覚めた男は、呻くように言った。
「いいの、こうなることを覚悟で今夜は来たの。気になさらないで」
ミドリは汚れたシーツを洗うからと男に告げ、男は所在なげにタバコに火を点けた。
流し場で洗いながら、ミドリは努めて明るく話をし始めた。
「この間の家族会議の時に、お母さんと妹は大賛成なんだけど、道夫兄さん、何となく反対らしいの。
はっきりとした理由は言ってくれないんですけど。 . . . 本文を読む
時間は未だ、八時前だった。
どうしてもミドリに会いたくなった。
“ミドリが出たら‥‥”と、公衆電話に手を伸ばした。
予感がしていたと喜ぶミドリの声に、男は救われる思いだった。
すぐにアパートに行きますと、弾んだ声だった。
今夜は、母と妹が母の実家に泊まりに行き、兄の道夫は残業で深夜近くの帰宅になるという。
そこで、友人宅を訪れる予定にしていたという。
あと五分も遅ければ、居なかったとも。
占 . . . 本文を読む
社員旅行で、大井川鐵道のSLに乗ってきました。
えっとですね、50とですね、6年、56年ぶりぐらいでしょうか。
確か、10歳前後まで、SLとバスを乗り継いでの通学だったと記憶しています。
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「ハイ、ハイ、みんなサービスよろしく! お一人さま、またまたのご来ー店だよ!」
耳をつんざくような騒音の中、二人掛けのソファに案内された。
薄暗い店内で、ミラーボールの光が グルグルと回っている。
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辞表を提出したその夜、男は夜の街に出た。資料室行き後は、誘う同僚もな
く 又誘われることもなかった。元来、一人で飲むことを嫌う男だった。誰かし
らと連れだっての酒を好む男だった。 . . . 本文を読む
この一件は、その日の内に社内に広まった。
噂が噂を呼び尾ひれがついた。
「女性二人に二股をかけて、手玉にとった」
「ナイトクラブで酔わせ、レイプまがいの事をした」
果ては、妊娠した女性を捨てた男というレッテルを貼られてしまった。
そんな男をかばう者もなく、特に女性社員からは、白い目で見られた。
さすがに、男も退社せざるを得なくなった。
「このことがなければ、元の部署に戻れたのに、残念だ」 . . . 本文を読む
「いいか、すぐにも麗子を返せ! さもなければ、警察に訴えるぞ! 監禁罪だ、
これは。どこだ、どこにいる! 頼むから、麗子を返してくれ、お願いだ」
そこには、麗子自慢の紳士は居なかった。唯々、娘の安否を気遣う父親が居た。 . . . 本文を読む