小坊主の殆どが商家の出であり、次男三男が多かった。
わがままの許される家から戒律の厳しい寺へ移り、嘆き悲しむ日々を送っている。 . . . 本文を読む
昨日までの小夜子ならば、「そんなこと、あたしには関係ないわ」と、席を立つところだ。
しかしいまは、妊婦のはなしを聞きたくてならない。
ささいなことも、一言一句聞きもらすものかと身構える小夜子だ。 . . . 本文を読む
岐阜市は揖斐・長良・木曽の三大川にめぐまれ水の恩恵によくしたものの、その一方で洪水になやまされつづけた。
そんなこの地に水防の神さまとして、おおおくの信仰を集める伊奈波神社がある。
主祭神は五十瓊敷入彦命(いにしきいりひこのみこと)だ。 . . . 本文を読む
「武蔵は、ほんとに小夜子が好きなんだ。
それは分かるね? けども、武蔵の女あそびは、病気だ。どうしようもない。
女あそびを止めちまったら、武蔵は死ぬかもしれない。それくらいの大病だわ。 . . . 本文を読む
「五ヶ月だね。気付かなかったのか、お前さん。
他人のそれには敏感なくせに、自分のこととなるとからきしだな」と、馴染みの医者にからかわれる始末だ。
「つわりは無かったのか? そうか。静かに静かに、いのちを育んできたんだな。 . . . 本文を読む
そののちに麗子さんからの情報で、熊本の親もとをはなれての集団就職で、年齢は十六歳だということがわかった。
声の小さな子で、いつもあいての耳元で話しかけている。
まるで内緒ばなしをしているように見えてしまう。まだ方言がとれずにいたせいらしい。 . . . 本文を読む