わたしが習った縄文人とはまるで違う、ほんとにお洒落な文化人だということです。
おいおいお話しできると思いますが、まずはこのことを知っておいてくださいな。 . . . 本文を読む
終わりの文字がスクリーン一杯に現れても、喪失に囚われていた正三は、小夜子に促されてもなお席を立つことが出来なかった。
男たちの、それぞれの勝手な言い分に混乱の極みに立っていた。
罪を問われれば当然の如くに罰が待っているのだ。
生きていくのがいやになるほどの、それほどに辛く暗い時代だからと言うのだろうか。
だから死を求めての告白なのだろうか。
なのになのに今、自分は、わがままを通そうとしている。
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正三の意に反し、小夜子はグイグイと中程の客席に進んで行った。
帰りを急ぐ客を押しのけるようにして、時に罵声を浴びながらも、流れに逆らって入り込んだ。
正三は、ただただ謝りつづけた。 . . . 本文を読む
先日の逢瀬の折には、隣町の映画館に出かけた。
ベニス国際映画祭でグランプリを獲得した、黒澤明監督作の〔羅生門〕が上映されていると聞き込んだ小夜子の、たっての希望だった。
正三にしても興味のある映画であったが、二人を知る人間の居ないという隣町であることが嬉しかった。 . . . 本文を読む
小夜子主導で始まった交際は、周囲の目をまるで気にしない奔放なものだった。“男女七歳にして、同席せず!”など、どこ吹く風とばかりに振舞った。連れ立って歩く折には必ず腕を組み、時にはピッタリとしがみつく小夜子だった。 . . . 本文を読む
その日のうちに、言い渡された処分を、ケロリとした表情で茂作に告げた。
「やめるって、小夜子。そんなやけを起こさないでもいいだろうに。
もう少し穏便な沙汰にしてもらえるように、わしが頼んでくるから」 . . . 本文を読む
翌日、小夜子の回りは人だかりだった。二日間だけの休みにも関わらす、長期間欠席したかの如き騒ぎだった。
「小夜子さま。入院されていたという噂で持ち切りなのですが、本当ですか? 」
「わたしが、入院? どうしてそんなことになるのかしら? 」 . . . 本文を読む