「帝王切開って。あの、お腹を切るってやつですか?」
「あぁ。母体が危ないと判断したら切りますから、ご了解くださいだとさ。書類に署名もさせられた」
「そうですか、それはそれは。ちと、大事にされすぎましたね。仇になったってわけですか」
「うん、考え違いをしたよ。小夜子にも赤子にも、悪いことをしてしまった。今、反省しているところだ」 . . . 本文を読む
「社長、社長! どこです?」
息せき切って、五平が入ってきた。
「おう、ここだ。大きな声を出すなよ、病院だぞ。それに夜間だ、響くんだよ」
「いやいや、すみません。で、どうなんです? まだ、のようですね。
お産というのは、分かりませんからな」
「あぁ、まだだ。長丁場になるらしい。赤子がな、大きくなり過ぎてな。
最悪、帝王切開しますって言われたよ」 . . . 本文を読む
“金で買えるものは買えばいい。金で買えなければ、汗で買えばいい。
それでも買えないものは…買えないものは奪えばいいってか?
価値の分かる者が持ってこそ、光り輝くものだ”
と武蔵は考える。 . . . 本文を読む
意味不明の言葉が洩れ聞こえるが、日本語なのかも分からない。
しかしだからこそ、小夜子には霊験新たかなものに思えた。
そしてその効果は、小夜子のお腹に如実に現れた。
さすっている産婆の手が、次第々々に暖かさが増してきた。
そしてその暖かさが小夜子のお腹に届き始めると、あれ程に感じていた激痛が少し和らいだように思えた。 . . . 本文を読む
卵など、武蔵の世話をするまで千勢が食したことのないものだった。
珍しげに見る千勢に「こうやってな、白いご飯の上にぶっかけてな、こうやってかき混ぜて食べるんだ。千勢も食べてみろ」と武蔵に勧められて、初めて食した。 . . . 本文を読む
「千勢、千勢。産婆さん、呼んでくれた? 病院に行った方がいいかしら。
ねえ、武蔵は? 武蔵はまだ帰らないの? えっ! まだ四時だから会社に居る?
あたしがこんなに苦しんでいるのに、会社で何してるのよ!
仕事? そんなのもの! 仕事とあたしと、どっちが大事なのよ! . . . 本文を読む