「母さん、やめてくれ。小夜子奥さまのことは言うなよ。もういい加減に宗教から離れてくれよ。忘れてしまったのかい、ひどい目にあったことを」 . . . 本文を読む
「いや、あのね。母さんの言いたいことはね、人間には陰と陽があるんだってことなの。男と女があるようにね。小夜子さまは、典型的な陽ですよ。社長さまはね、豪放に見えても、実は陰なんだよ。 . . . 本文を読む
小夜子に笑顔を見せて、そしてじろりと竹田を睨み付ける母親だった。
「でもね、勝利。お前だって、一端(いっぱし)の男だ。
富士商会という立派な会社にお世話になって、お給料だって他所さまには引けはとらないんだ。 . . . 本文を読む
(九)
「母さん、分かったから。死んだ父さんに言われたんだよね。
ありがとうって、言われたんだよね。
笑い顔一つ見せなかった父さんが、言ってくれたんだよね。
それが嬉しかったんだよね」
「お母さんの時代はそれで良いわよ。でも、あたしは違うの。
ねえ、小夜子さんもそうよね。違うのよね」
小夜子に同意を求める勝子だが、実のところは何が母親の時代と違うのか分からないでいる。
とに角母親のように、 . . . 本文を読む
同人の例会と、新年会でした。
護国之寺(ごこくしじ)の客殿にて、精進料理をいただくことになりました。
予定時間よりも早く着いて、境内を回ってきました。
ここには、国宝の「金銅獅子唐草文鉢」(奈良時代)があります。
レプリカが飾られてあるということで、拝観させてもらいました。
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「いいのよ、勝子さん。千勢は、そんなこと気にしないから。
かえって喜ぶわ。美味しいものには目がない娘だから。
作り方を教えてほしいって言い出すわ、きっと。
お母さん、頂いていくわ」
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(四)
大きく口を開けて小ぶりの里芋を食した途端、大粒の涙をボロボロと流し始めた。
「あれあれ、どうしました? 小夜子さまには辛かったですかね?
砂糖が足りませんでしたかね? お高いものだから、ケチり過ぎましたかね?
申し訳ないことでした」
皿を下げようとする母親を、小夜子の手が止めた。
「違うの、そうじゃないの。
お味で泣いたわけじゃないの。いえやっぱり、お味で泣いたの。
でも、辛い . . . 本文を読む
「そんなもこんなもあるもんですか!
小夜子さんを何だと思ってるのよ、あなた達は。
社長も社長よ。そんなことを言わせるなんて。
あーぁ、幻滅したわ。もっと男らしい方かと思ってたのに」 . . . 本文を読む