その夜、彼はなかなか寝付かれなかった。
身体は疲れているのだが、頭の中にあの令嬢が所狭しと現れ出てくるのだ。
参拝の後に露店でおでんをつついたのだが、どんな味だったのか覚えていない。 . . . 本文を読む
全てが令嬢のペースであり、彼は唯々付き従うだけであった。気まぐれに行動する令嬢に振り回されながら、時として反発心を感じる彼ではあったが、すぐにも萎えてしまう。
茂作の束縛から逃れようとした彼が、今又令嬢の意志に従うことは、或意味で滑稽ではあった。しかし彼は、満足だった。女王然とする彼女に従うことに、悦びさえ感じた。 . . . 本文を読む
構内における彼は、その無口さも手伝い、異性はおろか同性の友人さえいなかった。
この二流大学に籍を置く学生らは、彼のプライドを充たすものではなかった。
常に学業においてトップを走る彼は、他の学生の試験時における右往左往ぶりが滑稽だった。
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明治生まれの頑固な祖父の元から抜け出した彼は、十分過ぎる自由を持てあまし気味つつでもあった。
単身この地に出向いた彼には、全てが素晴らしいものであった。
月々の仕送りの額に特別不満があるわけではなかったが、大学1年の夏休みに始めたアルバイトをその後も続けた。
デパートのお中元配達のアルバイトに、彼は喜々として励んだ。 . . . 本文を読む
贅沢三昧に物品を買いあさる母親に対して、一言の苦言を言うでもなかった。
いや、むしろ喜んでいるようであった。
美しく着飾る母親を見て、満足の笑みさえ浮かべていた。
「おきれいな奥様をお持ちで…」という、その挨拶言葉に対し満足げに頷いていた。
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しかしその為に、自ら部活動すら決めることすらできないひ弱な青年に育ったことも、否めようのない事実だった。
結局の所、茂作翁の決めることとなり、数ある部の中から「源氏物語クラブ」が選ばれた。
理由は、「古典の授業において有利に働くから」であった。 . . . 本文を読む