「おじさあん!」
気が付くと、娘は離れた場所に居た。大きく手を振っている。
男も、大きく手を振った。
息せき切って、手にたくさんの草花を抱えて娘が戻ってきた。 . . . 本文を読む
「それじゃさ、高原に行こうよ。
あたいは、北国の生まれでね、家のすぐそばに丘があったんだ。
そこに行くまでの道ばたにはね、いろんな木が植わっているんだよ。
ポプラでしょ、プラタナスでしょ、それにいちょうも。
牛が放牧されててね、広い野原に放し飼いされてるの。
声をかけるとね『モオー』って返ってくるんだよ。
小さい頃、いつもその丘で遊んだの。
犬がいたんだけど、一緒に走ったんだ。
楽しかったんだ . . . 本文を読む
「おじさん、ひどいよ。先に出ちゃうなんて」
と、男の傍に座った。
「あゝ、悪かった。じゃあ、席も空いたことだし、移ろうか」
と、マスターの目を意識しながら、奥の空いたテーブルに移った。
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翌朝、どことて行く当てのない男は、ホテルの傍の喫茶店に入った。
殆ど満席の状態で、男はやむなくカウンターに座った。
苦いコーヒーだった。
ミドリの入れるコーヒーは、高い物ではなかったけれども、うまいコーヒーだった。
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〝俺は一体何をしているんだ。ミドリは、ひとりアパートで寝付かれずにいるだろうに〟
男は、すぐにも帰りたいと思った。
時に罵り合いながらも、ミドリには男の居ない生活はあり得ない。 . . . 本文を読む
その言葉が、合図かのようにどちらからともなく、唇を合わせた。
軽く触れただけのキスが、二度目には お互いの舌を絡め合わせた。
男は麗子の服を、麗子は男のシャツを、競い合うがの如くに脱がせ合った。
窓からの月明かりに照らし出されるその肌は、きめ細かく滑らかで吸い付くかの如きその肌は、生活に疲れたミドリの肌にはない、輝きがあった。
しばしの間、男は見とれていた。
「素晴らしい!」
思わず出た男の言 . . . 本文を読む
見知らぬ男との浮気は不安だった。
セールスマンとの浮気が発覚し、離婚騒動になったという噂話を喜々として話
す夫人仲間がいる。ホストクラブに繁雑に出入りし、ホストに入れ上げた挙げ
句に離婚したという夫人もいた。
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