「探しちゃったわ、ホントに。立ち上がってくれたから、助かったあ」
「やっと見つけた場所なんだけど。端っこだから見つけられないと思って、ボクもずっと立ってたんだ。しかし、すごいね」
小さな二人用のテーブルで、彼は無心にパクついた。その食べっぷりに、牧子はしばし見とれてしまった。 . . . 本文を読む
まずは明日のバスの時刻確認をしませんとねえ。
几帳面でしょ、わたし。
わたしと旅行をすれば、安全安心ですよ。
一時間に二本で、00分と30分でした。
実に分かり易い、こういう時刻設定は好きですよ。 . . . 本文を読む
「マックで、照り焼きバーガーを食べたいな。この間初めて食べたんだけど、すっごく美味しかった」
彼は、牧子の誘導尋問を無視して呟くように言った。
「ハンバーガー? うーん、もっと食事らしい物をたべないの? 遠慮はなしよ。ホントに、それでいいの?」 . . . 本文を読む
突然、彼の背中を誰かが押してきた。後ろを振り向くと、中年の男性がにやついている。
”何だ、このおじさん”と、怒りの気持ちが湧いてきたが、どうも様子がおかしい。
”下を見なさい”と、目配せをしている。
彼が視線を落とすと、膝を少し曲げた牧子が居た。 . . . 本文を読む
改札を出ると、わたしを待っていたかのごとくに、正面に[黒崎]という食堂がありました。
[出雲そば]という文字が、わたしを呼んでいます。
「よう頑張った、頑張ったのお。おいで、おいで。熱いそばでも食べんさい」
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牧子には、彼のことが弟のように思えていた。少なくとも、恋愛の対象ではなかった。
不倫という関係に疲れを感じ始めている牧子は、片意地張らぬ気楽な間柄を楽しみたかった。
軽口を叩く相手が欲しかったのだ。 . . . 本文を読む
今さら縁結びを求める気はさらさらありませんが、来世では是非とも運命の女と結ばれるべく、お願いの参詣です。というのは建前でして、いつまでひとり旅が続けられるか分かりませんが、旅先でのアバンチュールを求めて…。というのも、実は建前でして。本音は、まあいいじゃないですか。 . . . 本文を読む
牧子と連れ立って歩きながら、彼は嬉しさを噛み殺せなかった。
ついつい、頬が緩んでしまう。
永年の付き合いのような牧子の振る舞いが、彼を有頂天にしていた。
彼のことを“ボクちゃん”と呼んだのには驚いたが、それとて心地よい響きだった。 . . . 本文を読む
今さら縁結びを求める気はさらさらありませんが、来世では是非とも運命の女と結ばれるべく、お願いの参詣です。というのは建前でして、いつまでひとり旅が続けられるか分かりませんが、旅先でのアバンチュールを求めて…。というのも、実は建前でして。本音は、まあいいじゃないですか。 . . . 本文を読む
「ごめんね、長くなって。久しぶりだったから、つい話し込んじゃった。さあ、入って。」
花柄の傘を広げた牧子が、彼を呼んだ。小躍りしたい思いを押さえながら、その傘の中に入った。
「そうだわ。あなた、持ってくれる? 背が高いから、その方が楽でしょ。その代わり、私を濡らさないようにしてね」と、傘の柄を彼に渡した。 . . . 本文を読む