大きくため息をついた浅田は、ティーカップを手にして窓辺に向かった。
「彼女には…。
今の君と同じ立場に立たされたのですよ、わたしも。
そう、二歳の女の子が居たのです。
信じられますか? 敬虔なクリスチャンで、未婚の女性で、理知的な女性に、です。 . . . 本文を読む
「しかし先生。女子学生の間では、大人気ですよ。エコヒイキがない、とも言われてます。」
吉田は話題をすり替えた。確かに、浅田のホモ説は知っている。
しかしその真偽については、知りたくなかった。
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「まあ、聞いてくれよ」
と、昨日のことを話し出した。
「酔っ払いはねえ、基本的に自己中心なんです。
ほろ酔い、泥酔、そして乱酔。生酔い、大酔、酩酊なんてのもあるね。
その度合いが深まるにつれ、自己中心もまた度合いが深まっていく。
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喉にひりつきを覚えた彼は、
「悪かった。どうだい、ビールでも飲むかい?」
と、冷蔵庫を開けた。
「そうだった、ウィスキーを買ってきてたんだ」
吉田の差し出したウィスキーに、彼は少したじろいだ。
耀子のマンションで初飲みしたその翌日、二日酔いに悩まされた彼だった。
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「吉田君って、子供が好きなんだね」
「いや、俺も初めて知ったよ」
「で、どうしたの?」
「うん、ま3
な。彼女、本名は妙子って言うんだが、霧子じゃなくて良かったよ。
それはどうでも良いんだが…妙子ん家に泊まった」 . . . 本文を読む
「笑えるはずがないじゃないか。君がそんなに悩んでるのに、笑うことなんてできないよ。でもどうして、そんなことに‥」
「そうなんだ、そうなんだよ。どうして俺が、この俺さまが。女は、美人じゃない! 断言できる。 . . . 本文を読む
“それにしても、最近はどうなってるんだ。のぶこさんや耀子さんには、からかわれるし。貴子さんとは、相変わらずだし”
ベッドに潜り込んでからの彼は、ただただ悶々としていた。
“何をしたって言うんだ、まったく。それとも、もっと強引に行かなくちゃいけないんだろうか”
彼はモヤモヤとした気持ちのまま、何度も寝返りを繰り返した。 . . . 本文を読む
彼の気持ちの中には、井上に対する申し訳なさが渦巻いていた。
収入のこともありはしたが、本音を言えば貴子のことだったのだ。
毎日顔を合わせるのが、辛くなってきていた。
どこかしらぎこちなさが漂い始めている二人だった。 . . . 本文を読む
近年にない猛暑に悩まされ続けた夏も終わり、デパートでのアルバイトを辞めてからほぼ一ヶ月が経った。すぐに見つかるだろうと思っていた家庭起教師のバイトも、条件が合わずに決まらずにいた。
“デパートのバイトを辞めたのは早計だったか…”
半ば後悔の気持ちが湧きはしたが、すぐに“いや、これで良かったんだ”と思い直した。
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「今、起きます。起きますから、待っててください」
一時の酩酊状態からは抜け出したものの、体に力が入らない彼だった。
「情けないぞお! 妙齢の女二人が居るというのに」
耀子のそんな声に、のぶこが呼応した。
「そうだ、そうだあ! 男なら、襲ってみなさいよ」 . . . 本文を読む
「おいっ、こらっ! ミタぁ、起きろ! 練習だぞ、ダンスの練習だあ!」
耀子が突然に、酔いつぶれてテーブルにうつ伏していた彼の、頬を抓ったり耳たぶに噛みついたりした。
「はいっ、わかりました」
応えはするものの、彼の体はピクリともしなかった。 . . . 本文を読む
「すみません。ぼくは、人参よりキュウリがいいです」
「バカねえ、人参じゃなきゃダメなの」
「好きじゃないんですよ、人参は。どうしても、ダメですかあ?」
「もう、この子ったら。とぼけてるの? それともホントに分かんないの? のぶこ、何か言ってやんなさいよ」
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