さむらい小平次のしっくりこない話

世の中いつも、頭のいい人たちが正反対の事を言い合っている。
どっちが正しいか。自らの感性で感じてみよう!

インド放浪 本能の空腹⑭ 『1日だけのホームステイ』

2020-03-03 | インド放浪 本能の空腹


画像引用元 そうだ、世界に行こう『インドの田舎村でホームステイしたらカルチャーショック祭りだった』



インド放浪 本能の空腹⑭ 『1日だけのホームステイ』

30年近く前の、私のインド放浪、当時つけていた日記からお送りいたしております

前回、どういういきさつでそうなったかはわからないまま、カルカッタからプリー行夜行列車でともに旅をしたオーズビー、彼と共に彼の愛車、ベスパもどきのスクーターに二人乗りし、海を見て、ヤシの葉でできた掘立小屋のオンボロレストランで卵焼きと、甕から汲んだ水で割ったウイスキーの水割りを飲んだ、というところまででした

では続きを


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 卵焼きとウイスキーだけの簡単な食事を済ませ、おれたちは再びスクーターにまたがり走り出した。
 プリーの街は、人が少ない、と言うほどではないが静かだ。人、サイクルリクシャ、その他野良犬、道の真ん中には野良牛がどうどうと座っている。

 のんきな街だ。

 プリー到着間際、列車の中でざっと地球の歩き方に目を通したが、このプリーの街は、どちらかと言えば、西の地域に銀行や官公庁らしき施設があり、街の一応の中心となり、東側にはおれのような貧乏旅行をする外国人バックパッカーのための安宿やレストランがちらほらとあるようだった。
 駅を出てからのおれの方向感覚では、どうやら街の西の方へ向かっているようだ。こちらの方は外国人の旅行者などはあまり来ないようで、こうして走っていても一人も見かけない。
 
 やがてスクーターは、掘立小屋の並ぶ『住宅街?』のようなところの小路をすり抜ける、小屋の前で色褪せたサリーをまとった女たちが、タライに水を汲み、しゃがんで洗濯やら、野菜を洗ったりしている、前方に見えたばあさんと目が合った。ばあさんはスクーター、ではなく明らかにおれの顔を見て、卒倒するほどに驚いた顔でのけぞり、すれ違うまでおびえたような顔でおれを見つめていた。
 やはりこっちの西側にはあまり外国人は来ないのだろう、来てもこんな『住宅街?』を通ったりはしないのだろう。

 ほどなくしてオーズビーの自宅に着いた。平屋だが、壁一面を水色に塗った、コンクリ造りの割と立派な家だ。つい今しがた見てきた掘立小屋に比べれば、なおのこと立派に見える、そこそこ裕福な家なのだろう。

 手入れをしているとは思えない、緑の草や低木が雑に生える小さな庭から玄関へといざなわれ、中へと入る。

『ちょっと待っていてくれ』

 そう言ってオーズビーは奥の部屋へと消える、すぐに、オーズビーの家族が出てきた。年配の男女と、若い女、オーズビーの両親と姉、だそうだ。

『ナマステ―』

 おれと家族は向き合って胸の前で手を合わせ挨拶をした。家族はみな笑顔で迎えてくれた。

 基本的にインド人と言うのはシャイなのである。外国人に積極的に話しかけてくるやつ、ってのは大概悪巧みがあるやつだ、と聞いていた。必ずしもそうとは言えないまでも、大方当たっていると、おれはこの旅を通じて実感していくのだが、基本的にごく普通のインド人はシャイだから、コントで使うぐるぐるメガネのような目で興味津々、おれを見つめる父親を除けば、母と姉は笑顔は見せるものの、ちょっとぶっきらぼうな態度にも見える。

 『夕飯まで、ボクの部屋で休もう』

 おれはもう一度家族に笑顔で会釈をして、オーズビーに続いた。



※注釈 上の写真は、私が現地で撮った数少ない写真のうちの、さらに少ない現存する当時の写真です。目を塗りつぶしていますが、座っているのがぐるぐるメガネのオースビーの父親、その隣に立って背を向けているのがオーズビーです。

 
 小ざっぱりとした部屋だった。言われるままにおれは椅子に腰かけた。目の前の棚に、本やらカセットテープやらが並んでいる。オーズビーがカセットテープを指さし言う。

『コヘイジ、何か音楽を聴くか?何がいい?』

 何がいい?、と聞かれても、ミミズが這いつくばったような文字で書かれたタイトルを見ても、カルカッタの街中、大音量で流れていたあの独特のインド音楽であるだろう、ってこと以外分かるはずがない。

 と、その中に

『 Michael Jackson・Thriller 』

を見つける。  おお…

 マイケルジャクソンの音楽は、普段のおれにとっては、特別嫌いということはないが、わざわざ買って聴くほど好きでもない、というくらいの感じの音楽だった。だが、もはやすでに食傷気味のインド音楽よりはずっといい。

『マイケルジャクソンが聴きたい』
『OK』

 オーズビーは棚からカセットを取り出し、デッキへセットする。すぐに聴きなれたソウルフルな曲が流れ始める。そのマイケルの曲に合わせて、オーズビーがなんだか奇妙な踊りを踊り出す、どうやらさほど上手いとはおせじにも言えない『Moon Walk』をやって見せてくれているのだ。

 おれは笑っていいのか褒めていいのかよくわからず、生粋の日本人らしく無難な愛想笑いをして拍手を送った。
 まだ2曲ほどしか聴いていないうちに、オーズビーはカセットデッキから無言でテープを取り出しケースにしまい、棚からミミズの這いつくばったような文字のカセットテープを取り出し、ボリュームを上げてかけ始めた。またしてもあの不可思議な音階のインド音楽が部屋に響く…。やはり結局こっちの方が好きなんだな…。

 おれたちはしばらく談笑していたが、昨夜の、あの過酷な満員夜行列車の疲れもあり、つい男同志でベッドに横になると、甕の水の水割りの効果もあり、たちまち眠りについた。泥のように眠る、まさにそれだった。



*********************つづく

 このシリーズを書き始めた時、屋根裏部屋に入り、古いアルバムやらをひっくり返してみましたが、やはり写真はほとんど残っていませんでした。度重なる引越しで、無くなってしまったんでしょうか。ちょっと残念ですが、奇跡的に残っていた何枚かの写真、この日記の中でご紹介できるものは載せて行きたいと思います。
※引用元を示し載せている画像は、撮影された方の了承を頂いた上で掲載しております。あくまでも自分の記憶に近いイメージであり、場所も撮影時期も無関係です。


コメント (6)
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