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30年近く前、私がインドを一人旅した時の日記をもとにお送りいたしております
今回の記事は、過去記事
『インド放浪 本能の空腹 ④ 『サダルストリート』
インド放浪 本能の空腹 ⑧ 『ラームと買い物 2 』
インド放浪 本能の空腹 ⑨ 『ラームと買い物 衝撃的な結末』
の三編を、斜め読みでかまいませんので、先にご一読頂けると、より一層楽しんで頂けるかと思います
ぜひとも宜しくお願い致します
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おれは以前スペインを中心にヨーロッパを旅したことがある。最初にドイツのフランクフルトに入り、そこから一日半ほどだったか、列車に揺られ、バルセロナに到着した。
早朝、閑散とした駅構内でホテルの案内所を見つけ、そこへ向かって歩き出したところ、右前方から見慣れた顔の男女が歩いてくるのを見つけた。男の方は、おれの大学の音楽サークルの後輩でパーカッションを担当しているF、そしてFの彼女であった。
同じ時期にスペインを旅行していたのは知っていたが、待ち合わせたわけでもなく、互いにスペインのどこへ行くだとかを全く知らなかったのだ。にも関わらずこの『偶然』、本当に驚いた。
新宿の歌舞伎町あたりだって、同日、同時刻に友人同士がたまたまそこにいたからと言って、偶然に出会える確率なんてとても低いだろう。それがスペイン一国、おれの列車が1分遅れていたら出会えなかったろう、まさに奇跡である。
ある日のこと、おれはベッドに寝ころんでガイドブックを読んでいた。そこに、『インドの新手の詐欺師』のことが書かれていた。それは、露骨なポン引きとは違い、友人になったように見せかけ、一緒に買い物をして高額な商品を買わせる、というものだった。
まさか!! カルカッタで出会ったラーム!? いやいや、そんなことはないだろう、もしラームが詐欺師だったら、いくらインド人だからと言っても、おれは人間不信になってしまう。
あれは、おれが米ドルの買い物を勝手にルピーと勘違いして、金持ちのラームと同じようなペースで買い物をした、全て自己責任で起きたちょっとした事故だ…。 のはずだ…。
いやな考えが頭に浮かんだおれは、それを払しょくしようと外へ出た。西側地区の街道沿いのバザールへ行ってみよう、そう思い歩き出した。
ほどなくして街道沿いのバザールに到着、雑多な店が雑に並んでいる。おれのいる辺りとは違う賑わいを見せている。
日記では音は書けないが、インドの街を歩いていると、ひっきりなしにどこかで、あの不可思議な音階のインド音楽が鳴り響いている、インド人は映画だけではなく音楽好きでもある。
土産は、カルカッタでラームに連れられていった店で、少々高い出費、15万もの買い物を済ませ、すでに日本へ送っている、だからここで特段買いたいものがあるわけでもなく、ひやかし気分で雑に並んでいる店を見て回っていた。
『おーい!』
どこからか『おーい』と声が聞こえる。
『おーい!』
『おーい!』
『おーい!』
その声が近づいてくる。 ん!? 『おーい』? 日本語!!? おれはあわてて声の発信源を探す。
『おーい!』
『おーい!』
おれはついにその声の主をみつけた。街道沿いに走って来る自転車、運転しているのは男、さらりとした髪をたなびかせ、サングラス、白いシャツに黒っぽい短パン、その男が手を振りながらおれに近づいてくる!
『けっ…、けっ…、けっ…、 !!』
『K君!!!』
『小平次さーーーーーーーん!!!』
なんと!!
同じ飛行機に乗って、ダッカで2日間一緒に過ごしたK君!!
自転車でインド半島最南端まで走破しようとの野望を持つあのK君!
そんな破天荒な野望を持ちながら、ダッカの凄まじい混沌と喧騒に気圧され、『小平次さん、カルカッタってここよりもすごいんですよね、おれ、不安なんでしばらく一緒にいてくれませんか?』と、おれに頼んできたK君!!
違う便で先にカルカッタ入りし、待ち合わせをしたSホテルにいなかったK君!!
ダッカと言う、世界でもトップクラスの喧騒と混沌の街で濃すぎる時間を共に過ごした。たった2日間とは言え、おれたちはすでに親友のようであったのだ。
『K君!!』
『小平次さん!!』
K君が自転車を降りる、おれたちは周りの目も憚ることなく思わず抱き合った。
『小平次さん、カルカッタの次はプリーに行くって言ってたからもしかしたら、って思ってたんですよ! でもおれ、あれからしばらくカルカッタにいて、それからここまでも色んな街立ち寄ってゆっくり来たから、もう他の街へ行っちゃってるかな、とか思ってたら、着いた早々、いや、まさか会えるとは!!』
本当に奇跡である。実はおれはこのバザールに来たのは初めてだ。偶然そう思い立ち、偶然この時間にやって来なければ、プリーは小さな街ではあるが、それでもそれなりの街だ、会うことはできなかったかもしれないのだ。
『小平次さん、地球の歩き方に出てるホテルで、オーナーの奥さんが日本人で、たまにおにぎりとか作ってくれるってホテル知ってます? おれ、そこに泊まろうかと思ってるんですよ、小平次さんはどこに泊まってるんですか?』
『ああ、あのホテル、知ってるよ、案内するよ、でもその前におれの泊まってるホテルへ来なよ、積もる話もあるからさ、お互いに!』
『いいっすね! ありますよ! おれもたくさん!!』
何より久しぶりの日本語の会話がうれしかった。自転車を引いて歩くK君と、仲良く並んでおれのホテルへ向かって歩き出した。そしてホテルに着く。外観を見てK君が言う。
『いいホテルですね!きれいだし! 一泊いくらですか?』
『120ルピーだよ』
『120かあ! ちょっと高いっすね! おれはやっぱり日本人奥さんのホテルに泊まります』
おれの部屋に入る。途端、お互い堰を切ったように日本語の会話が始まる。おれたちの最大の関心事、それはなぜ、待ち合わせたSホテルで落ち合えなかったのか、そのことであった。
『いや、実はおれ、カルカッタで詐欺に遭っちゃって…。』
『詐欺?』
『そうなんすよ、ダッカからの飛行機にもう一人日本人がいて、その人学生さんで英語も話せるんですけど、やっぱりダッカの街見て不安になったらしくて、しばらく一緒にいようってなったんですよ』
(うん、うん、おれはカルカッタの街に入った時は泣きそうだったよ)
『それで、小平次さんのこと話してSホテルに一緒にいくことになったんですけどね、サダルストリートでタクシー降りたらもう! すげえ数の乞食とポン引き、わらわらよって来て!』
(うん、うん、すごかったよね)
『おれたち完全にビビっちゃって、その内どこ歩いてるかもわからなくなって!!』
(うん、うん、おれもおれも)
『何が何だかもう目まぐるしくて、そんなところへちょっとこざっぱりしたインド人男が声かけてきて…』
(ああ、おれもラームとそんな感じだった)
『でも、たいがいのヤツは信用できないじゃないですか!?』
(うん、うん、そりゃそうだよ)
『でも、そいつが日本に行ったことがあるっていうんですよ! それが東京や大阪だって言ったら信用しなかったんですけど、埼玉、とか言うんでついおれたち反応しちゃったんですよね』
(うん、ん!? 埼玉?)
『で、おれたち実際もうどうしていいかわからなかったんで、そいつの紹介するホテルへ行くことになったんですよ! でもその前に土産物は先に買った方がいい、ってちょうどそいつが買い物にいくところだったからって付き合わされたんですよ』
(…、えっとー…。)
『なんか薄暗い屋内商店街みたいなところで、シルクを買うって!』
(シルク!!)
『店の2階で、そいつが店員にシルクを持って来させて、そしたらそいつがライターで端っこを焼いて匂いを嗅いで、いきなりNO SilK!!って布を叩きつけたんですよ!!』
(NO SilK!! ……、K君……、全部一緒だよ…!!)
『それで何だかわけわからないうちに買い物しちゃって、いざ支払いってなったら…』
(うん、うん、支払いってなったら!?)
『ルピーだと思ってた買い物の値段が、なんと!』
(うん、うん、全部ドルだったんだね?(泣))
『全部USドルだって言うんですよ!! ぶったまげましたよ!』
(キターーーーー!!! K君!おれもだよ!!)
『そ、それで、K君、いくらやられたの?』
『6万です!! 6万もやられちゃいましたよ!』
『ろ、6万かあ!…。で、で、K君さ、どうしてこれが詐欺だってわかったの? もしかしたら金持ちと一緒につい買い物しただけかもしれないじゃん?』
『いや、最後にUSドルって言うのもおかしいし、そのあとカルカッタで知り合った日本人から聞いたんですよ、同じ手口でやられてる日本人がけっこういるって!』
『………………。おれもだよ!!』
あの… あの… !!!!
『ラームのクソヤロー!!!!!』
おれはK君に自分もやられたことを話した。やられた額は『10万チョイね…』と、少しばかり見栄を張った。
あのラームが詐欺師だとわかったことは、かなりショックであった。だが、まあ考えてみればおかしな話なのだ、とても高くついた授業料だ。
K君を引っかけたやつは、名前はラームではなかったらしい、風貌を聞いてもどうも別人のようだ、どうやら日本人を引っかける役割のやつは何人かいるらしい。
悔しい思いはあったが、それ以上にK君との再会がなによりうれしかった。この後、おれはプリーの街を出るまで、K君とつるんですごしたのであった。
************************** つづく
いやあ、このK君との偶然の再会は本当に驚きました。冒頭でお話ししましたバルセロナでの偶然も含め、私はこの手の偶然について『持って』るようです(笑)
しばらくはK君と過ごした日々の日記が続きます
『日本人を引っかける役割のやつは何人かいるらしい』
これについては、日本に帰ってから数年たって、私はあることに気づき、とても合点がいったのでした。
それはまた、ずっと後の記事で。
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