こんにちは
小野派一刀流免許皆伝小平次です
実は小平次、いわゆるバツイチなんです
前妻との間には娘もおりました
離婚て、結婚よりパワーがいる、とよく言われますが、本当にそう思います
決して前妻のことが憎かったわけでもなく、当時の諸事情が、結婚生活を無理なものにさせていました
前妻からの離婚条件に、当時3歳の娘には会わせない、というものがあり、小平次は断固拒否、その条件は呑めないと、もめておりました
離婚協議書を作成する際、公証人が『離婚した同居していない片親との面談は、子供の権利なので、親が会わせないなどと協議書に盛り込むことはできない』と言ってくれたのですが、前妻は何が何でも会わせないの一点張り、離婚協議がなかなか前に進まない状況の中、キリスト教との決別、アイデンティティの否定、かわいい盛りの娘に会うことができなくなる、小平次の心は病んでいったのです
それが、先頃書き始めた二度目のインド日記の冒頭でお話した、心の病の大きな原因でした
前妻が会わせない、と言っているところへ無理やり会いに行けば、それこそ揉めごとが大きくなり、幼い娘のためにもならない、そう自分に言い聞かせ、もう一度前を向いて進もう、そう決断したのでした
その後、今の妻に出会い、娘も授かり、人生大変なことも多々ありながらも平和に暮らしております
それでも、前妻との間の娘のことを忘れることなどできるはずもなく、時折インターネットで前妻との娘の名前を検索したりしておりました
離婚してから15年後、つい会えない娘の名前、前妻の苗字をつけて検索しておりますと、いつも出て来る同姓同名のある芸術家さんがヒットします
そうそうインターネットで検索して、名前が出て来るって、ましてやまだ二十歳前、ヒットするはずもありません
ところが、某大学の図書館主催の書評コンテストの入賞者に別れた娘の名前がヒット、年齢もドンピシャです
『これは…もしかして…』
さらに調べていると、前妻の実家近くの中学校の書道コンテストにも同じ名前が…、年齢もぴったり…
さらに、その某大学の書評コンテストの表彰式が、その大学の図書館で近く行われることを突き止めました
苦しみながら別れて15年後のことです
当時タクシードライバーをしていた小平次は、仕事明け、一睡もせずに帽子を深々と被り、サングラスをかけ、コロナでもマスクをしないような人間がしっかりとマスクを装着、表彰式の行われる某大学の図書館へ向かいました
表彰式会場になる図書館の内部には入れないものの、入口のロビーまでは進入成功、胸を高鳴らせながら、別れた娘に15年ぶりに会えるかもしれない、怪しいカッコのまま緊張してその時を待ちます
『今、顔見て娘だとわかるかな…』
多少の不安もあります、そもそもコンテスト入賞者が確実に娘であるとも限りません
そんな時、入り口付近をウロウロしていると、前方から前妻とその兄とばったりと出くわします
変装? していたのでこちらは気づかれませんでしたが、小平次は慌てて図書館の外にある路地に隠れます
すぐに後を追うと、前妻と兄の後ろを若い女の子が一緒に歩いているのに気づきます
『あれは、もしかして…』
後姿しか確認できないまま、3人は、関係者しか入れない図書館の内部へと入って行きました
その後小平次はロビーで3人が出て来るのを待ちます
待つこと1時間、エレベーターから前妻と兄が出てきます、娘はいないようです
前妻と兄はそのまま出口に向かい図書館を出ます、小平次は今どうすべきか、頭を巡らせます
『多分、今受賞者だけで記念撮影とか、軽い懇親会みたいなことをしているのかもしれない、それで2人は先に出て…、このまま先に帰るのか、いや、今は昼時、どこかで待ち合わせ、昼食でもとるのかもしれない…』
小平次は2人の後を追います
片側3車線の2つの国道が交わる大きな交差点、二人はそこを渡ると、斜向かいにあった西洋料理の店へと入って行きます
『予想通りだ、恐らくあの店で待ち合わせるのだろう』
急いで図書館へ戻ります、そして数分後、エレベーターの扉が開き、花束を持った数名の学生と関係者がゾロゾロと降りてきます
その中の女の子の一人に目が向きます
『娘だ!!』
小平次の記憶にある幼かったころとは随分顔つきも変わってはいましたが、一目で娘と確信します
『娘』は、小平次の近くにあったソファ腰かけ、スマホを取り出し何かを打ち始めます
それをじっと見つめる小平次、不意に『娘』が顔をあげ、小平次と一瞬だけ目が合います
『娘』はスマホをしまうと、図書館を出て、前妻と兄が待っているであろう西洋料理店の方へ向かって歩き始めました
当然後を追います、予想通り、前妻と兄の入った店へと入ります
この時点で、やはりあの子は娘であった、と確信します
その大交差点で小平次は1時間ほど待ちます
前妻と兄、そして娘が出てきます、小平次はしばらく道路を挟んだ反対側の歩道を歩きながら娘を追います
しかし、追ったところでどうにもできません
それでも娘に会えた、小平次は大通りの人ごみの中、電柱に腕をつけ声を出して泣きました
その日、帰宅すると、今の妻との娘(中1)が昼寝から起きて来ておかしなことを言います
『ねえパパ、なんかおかしな夢を見たよ、なんかさ、自分にお姉ちゃんがいる夢なんだ』
『えっ!!』
不思議なことがあるものです
今の妻とは、いずれ娘が大学を卒業するような歳になった時、『姉』がいることは話さないといけない、とは一人っ子であることも考え、そう話していました
そして先日、娘は大学を卒業し、教員免許を取得、その免状をもらう申請を東京都に出します
けっこう社会問題などにも関心を持ち、仲間とも色々議論をしたりもしているようですが、生活面での常識、社会保険とか、所得税だとか、そういったことにはまるで疎いところがあります
そんな娘が言います
『あのさぁ、教員免状もらうのに戸籍謄本が必要なんだけど、どこで取れるの?うちの近くの出張所で取れるの?』
『ウチの本籍は古い時代のまんまで、新宿区にあるから、基本新宿区役所でとることになるな、でも郵送の手続きとかすればとれるよ』
『めんどくさいから新宿なら行って来る』
その日、小平次は妻に言います
『ついにこの日が来てしまった、戸籍をとれば、あいつ自分に姉がいることを知ることになる』
『そんときはそんとき、戸籍をとって来たらちゃんと話してやろう』
で、その数日後、娘が新宿役所で戸籍謄本をとってきました
小平次が帰宅すると、娘は、いつもそんなことはしないのに、部屋を暗くしたまま妻のベッドにうつ伏せになっていました
小平次は妻に聞きます
『あいつ、様子どう?』
『帰って来てからずっとあのまんま…』
そう言って妻がそっと様子を見ます、そして両手を目にあて、シクシク、とポーズをとります
『えっ!泣いてる? それじゃあ、ちゃんと話そう』
妻が娘を呼びます
『これからパパが大事な話をするからちょっとこっちへ来て』
娘はいかにも寝起きの顔で、めんどくさそうに小平次の前に座ります、顔を見る限り、泣いていた様子はありません
『あのさ、今日戸籍とってきたんだろ? そしたら気づいたよな』
『何が…?』
『いや、戸籍とって来て、中身見たんだろ、そしたら気づくだろ?』
『だから、何が?』
ここまで来たら後戻りはできません
『実はパパ、一度離婚をしているんだ、で、前の人との間には娘がいるんだ』
『ふっ』
なぜか娘が鼻で笑います
『戸籍見たらわかるだろ?』
『ああ、そう言えば、知らない人の名前があるな、とは思った』
『そう、その人はお前の姉だ』
『…、ふーん、そうなんだ』
『もし、会いたい、とか思うんなら住所はわかる』
『会いになんか行かねーよ』
小平次と妻は顔を見合わせます
小学生の頃にこんな話を聞かせたら、相手の事情なんかもお構いなしに突っ走って会いに行くような子でしたが、大人になったからなのか、音楽とかやっているからなのか、予想外にクールな反応です、でも、一言だけ娘が言います
『そうかぁ、自分、次女だったんだ…、良かった、次女だったんだ、そう言えば役所の人があなたは次女ですって言うからおかしいなと思ったんだよね、最後は長女だって言い直してたけど…。』
一人っ子の長女、思いのほかそのことにプレッシャーがあったようです
娘の反応は予想外でしたが、基本的には情熱的なところもあるので、いずれ『姉』を訪ねる日が来るかもしれません
御免!