鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

日足鑢文図鐔 直忠 Naotada Tsuba

2018-10-13 | 鍔の歴史
日足鑢文図鐔 直忠


日足鑢文図鐔 直忠

 直忠は直勝の門人。刀匠鐔や甲冑師鐔を想わせる古風な鐔を製作した。この鐔が良い例で、鎚で叩き締めた後に焼手を加えたような微妙な凹凸で全面が覆われ、その合間に放射状の筋が窺える。もう一方の面には文字の浮彫がある。この点が独創であろう。刀だけでなく鐔の製作においても復古意識が高まったと言って良いのだろう。


桐唐草図鐔 荘司弥門直勝 Naokatsu Tsuba

2018-10-12 | 鍔の歴史
桐唐草図鐔 荘司弥門直勝


桐唐草図鐔 荘司弥門直勝

 江戸後期の刀工の中には、古作に倣った鐔を製作している者がある。特に直勝は技術も感性も高く、信家に紛れる鐔を遺している。この鐔などは、銘がなければ信家に紛れよう。地鉄の量感、切羽台厚と耳の厚さ、打返耳の様子、地面に残された鎚の痕跡、力強い毛彫などいずれも信家。この鐔は、上下に二つ木瓜形としており、造形的にも面白い。刀工の作らしい鉄味が、掌中で楽しめる鐔。

鯉魚図鐔 甚吾 Jingo Tsuba

2018-10-11 | 鍔の歴史
鯉魚図鐔 甚吾


鯉魚図鐔 甚吾

前にも紹介したが、甚吾は鯉の図の鐔をいくつか製作している。この鐔では裏に梅の花を描いている。梅の花も甚吾が好んだ題材。鍛えた鎚の痕跡を活かした地面は、焼手によってさらに自然な凹凸が生じ、滝つぼを強く印象付けている。この鉄味の魅力が、即ち甚吾の魅力であろう。素朴で力強い象嵌も特徴だが、鑑賞の要点は鉄の質感にある。掌中で楽しみたい作の一つ。18□


太刀透図鐔 林 Hayashi Tsuba

2018-10-10 | 鍔の歴史
太刀透図鐔 林


太刀透図鐔 林

 林派の流祖又七は鉄砲鍛冶の出。鉄を熟す技術は殊に優れている。実用の時代における鉄味の良さとは、相手の攻撃に耐えられる強靭さに突き詰められよう。この鐔は縦が80ミリだが、なんとなく小振りに引き締まっているように感じられる。糸巻風木瓜形に造り込まれているためであろう。角が出ていないために障りがなく、しかも床に置いた状態で転がり難い。即ち実用性を突き詰めた構造。しかも、堅く鍛えられた鉄の素質が群を抜いて良い。林派の生み出した鉄についての評価は頗る高い。30□

竹割虎図鐔三題 薩摩 Satsuma Tsuba

2018-10-09 | 鍔の歴史
竹割虎図鐔三題 薩摩


竹割虎図鐔三題 薩摩

 猛虎は薩摩金工の得意とした図。鍛えの強い鉄地を頑丈に造り込み、肉彫で耳に竹を、大きさのバランスは無視して猛虎を心象的に彫り描いた作が多い。ここに紹介するのは、いずれも薩摩の作。正阿弥の影響であろうか金布目象嵌を施した作もあり、虎の表情も様々。節のくっきりと立っている竹、その耳の鉄の風情がいい。鉄骨ではないものの、光沢が強く鉄に表情がある。



菅原道真留守模様図鐔 正阿弥盛積 Morizumi Tsuba

2018-10-06 | 鍔の歴史
菅原道真留守模様図鐔 正阿弥盛積


菅原道真留守模様図鐔 正阿弥盛積

牛に梅で菅原道真。大胆でひょうげた描写からなる作。正阿弥盛積は伊予正阿弥の鐔工で、鉄地に金銀の布目象嵌を施した華やかな江戸期正阿弥伝の作風を得意としたが、本作はあまり金の布目象嵌を用いず、鉄地の素朴な風合いを強く打ち出した表現。肉彫表現もいいし、なんといっても図柄が面白く、牛を強く彫り表して菅原道真の存在を無視したかのような、不思議な空気感を示している。

石垣に陣幕図鐔 間 Hazama Tsuba

2018-10-05 | 鍔の歴史
石垣に陣幕図鐔 間


石垣に陣幕図鐔 間

 鉄の強さをこれでもかというほどに肉感的に表現した作。見どころは石垣の存在感に他ならないのだが、風に靡いているような陣幕の描写が高彫によるから凄い。鉄色黒々として鉄砲鍛冶の出と伝える間一門の創造的魅力が横溢。因みに、間は鉄地に砂張象嵌による文様表現を得意としている。ここではそのような砂張風の質感はない。鉄味の美観に突き詰められている。

天球儀図鐔 政随 Masayuki Tsuba

2018-10-04 | 鍔の歴史
天球儀図鐔 政随


天球儀図鐔 政随

 航海などで利用された天球儀が画題。鉄地を地荒らし風に仕上げて背景とし、主題の部分は立体感に富んだ高彫表現。立体感とはいえ、天球儀は球体である。わずか数ミリの高彫で球を表現するのだから凄い。裏面は波高く荒れた海。航海の無事を願ったものであろうか。地肌の表現が活きた作。政随は奈良派の金工。奈良三作の安親、利壽、乗意に次ぐ名工で、前三工に加えて四天王と崇められた。

金剛王図鐔 東雨 Tou Tsuba

2018-10-03 | 鍔の歴史
金剛王図鐔 東雨


金剛王図鐔 東雨

 奈良派の知名度をより高めたのが安親、後の東雨である。装剣小道具での金剛は、仏を守る金剛力士のように阿吽の相を示す一対の仁王像の図で知られている。仁王像をそのまま彫刻した作もあるが、安親は、存在感のある文字で表現している。鉄地に文字のみが高彫。背景が石目地処理され、所々に抑揚のある浅い鋤彫を加えており、大空に金剛王が浮かび、下界を見下ろしているかのような、強い存在感がある。安親は写実的作風から伝統的な文様、人物の細密描写はもちろん雄大な山水図迄多彩な画題を手掛けている。活人剣のように文字を彫り描いた作もある。単純で簡潔な作だが、見どころが多く奥深い意味を宿している。掌中で鑑賞すべき作品の一つであろう。

鷺図鐔 江戸住利治 Toshiharu Tsuba

2018-10-02 | 鍔の歴史
鷺図鐔 江戸住利治


鷺図鐔 江戸住利治

 江戸に栄えた奈良派の金工。風景の文様表現は琳派の背景に備わっている美観のひとつだが、鐔工もこのように巧みに作品に採り入れている。背景を成しているのは鉄味であることは言うまでもない。単に鐔を構成している鉄の板ではなく表面には鎚の痕跡を残し、上部の耳際に筋状の働きが浮かび上がっているように、景色として鉄の肌合いを機能させているのである。

渦巻文散らし図鐔 肥後 Higo Tsuba

2018-10-01 | 鍔の歴史
渦巻文散らし図鐔 肥後


渦巻文散らし図鐔 肥後

 鍛えた鉄地を焼き入れし、表面を腐らかして自然な肌合いを表したもの。渦巻文がさほど装飾性を追求したものではなく、水玉のように鐔面に散らされているのみだが、地鉄の強みや肌合いの景色が、この渦巻きを魅力ある景色に仕立てている。巧みに計算された鉄の地模様と金による渦巻の布置である。過ぎることのないもの同士が働き合って新たな美観を生み出している好例。