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日本経済新聞 2015年5月14日付 心配なフランス「2倍議決権」

2019-03-08 12:36:30 | Diaries
株主の権利をめぐるフランスの新法が波紋を広げている。当該企業の株式を2年以上保有している株主に2倍の議決権を付与するのが骨子だ。表向きの理由は長期の視点に基づく経営を促すことだが、実際には仏政府などの発言力が強まりすぎて、健全な企業統治が損なわれる懸念がある。

新たな法律は通称「フロランジュ法」と呼ばれ、鉄鋼大手の欧アルセロール・ミタルが2012年に仏北東部フロランジュの製鉄所の閉鎖を決めたことに端を発する。この決定に世論が激しく反発し、仏政府も介入した。

その後、企業が工場を閉める前に売却先を探すことを義務づける法律づくりが進み、その中にもうひとつの目玉として2倍議決権の規定も盛り込まれた。

あらゆる株主が同等の権利を持つのが資本主義の基本だが、例外措置として議決権に差を設けることはあってもいい。

株を短期で売買するデイトレーダーなどに比べて、長期間保有する株主は企業の持続的な成長に関心があるはずだ。彼らの発言力が増せば、将来を見すえた投資や人材育成が容易になり、企業の繁栄につながるかもしれない。

ただ、今回のフランスの動きは利点よりもマイナスが大きいのではないか。議決権の2倍化で権限が増大する大株主のひとつが仏政府だ。例えば自動車大手のルノーは仏政府の議決権が17%から28%に増える見通し。経営者のなかには、経営に対する政府の介入が強まらないか懸念する向きもある。航空大手のエールフランスKLMについても、仏政府は株式買い増しに乗り出した。

企業のリストラに待ったをかけたり、外国企業の買収から自国企業を防衛したりするために政府が権限を行使すれば、経営革新や産業の新陳代謝が進まず、一国の経済の停滞を招くだろう。

日本でも今後議決権の異なる種類株の活用が進むかもしれないが、それが経営にどんな影響を及ぼすのか慎重な見極めが必要だ。