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書評:詩集「あおい、母」 神泉薫 著 書肆山田刊

2014年05月25日 23時59分59秒 | 書評(文学)
詩集「あおい、母」神泉薫 著 書肆山田刊


 「あおい、母」は神泉薫の第三詩集だ。それ以前に中村恵美の名で、「火よ!」と「十字路」と二冊の詩集を出版している。このうち、「火よ!」では第八回中原中也賞を受賞している。

 「詩人の聲」の会場で入手したものだったが、タイトルのみを見て「母性」を主題とする詩集かと思った。神泉が「聲を撃つ」ときも、やわらかな語感を活かした作品を選ぶことが多かった。

 この詩集は三部立て。合わせて十八篇の詩が収録されている。表題をあげよう。


「たどりつくまで」「晶子の飛蝗」「林檎を剥く」「ラ・パハレラ、風の庭」「神様処方箋を」「鳥の嘴には一本のペンが」「グリム兄弟とシンボルスカに」「花占いを真似て」「『現在』の横顔」「忘却について」「山々の麓で」「われらさまよえる放蕩息子」「サンゲ・サブール」「対話を」「秋」「古代に生きる王のように」「”地上の世界”との和解はまだ」。

 全編の作風は、ピュアな抒情だ。自然との融合を思わせる作品もある。

 だがそういった柔和な作品だけではない。作品中の言葉を拾ってみよう。

「軍靴の音」「貧しさと孤独」「人間不信と金儲けまい進症」「民衆の声」「奴らを通すな」(反ファシストの言葉)などが散見する。

 これらの言葉は衝撃的意味を持っている。これらは生きた人間の野望と罪とを象徴しているように思える。

 そしてこの詩集に収録された作品は、「グリム童話集」、「世界の神話」、マザーテレサの著作、「森の生活」、「柳田国男の民俗学」、レイチェル・カーソンの著作、「ジャコメッティー 私の現実」など実に様々な著作からの引用がある。


 (巻末の「注その他」より)


 これらの著作は、芸術のみならず、神話、民俗学、など人間社会の多方面に渡る。この引用を神泉は「詩」として昇華している。

 人間の優しさも、みにくさも、愛情も憎悪も、それらを一体のものとして、一冊の詩集を構成している。

 いわば「人間賛歌」を主題とした詩集と言っていいだろう。こういった多彩な表現は、中原中也賞を受賞した、第一詩集からの、著者の精神生活の中で培われたものなのだろう。




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