岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

短歌・日本語・斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・社会・歴史について考える

今年のさくらの歌:尾崎左永子の短歌

2022年09月30日 19時27分54秒 | 尾崎左永子(長澤一作・川島喜代詩)の短歌を読む
・父が逝き母が逝きやがてわれも逝く地上の今年のさくら耀(かがよ)ふ「春雪ふたたび」所収。 境涯詠である。「父が亡くなり、母が亡くなり、やがては作者も死を迎える」そこを心に留めて「地上にさくらが耀(かがよ)ふ」のを見た。 地名、時間、日付は捨象されている。「表現の限定」「言葉の削ぎ落し」がここでも効いている。 そして、下の句の具体が作者の心情を象徴している。 「表現の限定」「象徴性」を佐藤佐太郎から . . . 本文を読む

天の意思の歌:尾崎左永子の短歌

2022年09月29日 18時57分21秒 | 尾崎左永子(長澤一作・川島喜代詩)の短歌を読む
・樅(もみ)枯れて佇てり一木の歳月をここに据えたるその天の意思「かまくらもだぁん」所収まずは歌意「モミの木が枯れて佇んでいる一本の木のここまで経て来た歳月がここに据えられている。それは天の意思なのだ」結句が大胆である。どこに植えられて、植わっているか、一日の時刻はいつ頃か、は詠みこまれていない。「捨象」されている。「表現の限定」「言葉の削ぎ落し」だ。 また、一首全体が「悲しみ・寂しさ」を象徴してい . . . 本文を読む

過去の記憶を怖れる歌:尾崎左永子の短歌

2022年09月28日 23時23分53秒 | 尾崎左永子(長澤一作・川島喜代詩)の短歌を読む
・切尖(きっさき)の光るものなべて怖れゐし午後過ぎて夕べ草に降る雨 「鎌倉もだぁん」所収 日常詠である。これも「NHK歌壇」で紹介された一首。 「切尖(きっさき)の光るものなべて」とは、「切尖(きっさき)の鋭く尖った包丁など」と番組で作者が述べていた。「なべて」は「おおよそすべて」の意。 「包丁・千枚通しなど、切尖(きっさき)尖るものは、今でも苦手」だそうだ。 「切尖(きっさき)の光るものなべて」 . . . 本文を読む

ファシズムの予感(日本ペンクラブ会報特別号より)

2022年09月27日 22時02分46秒 | 政治経済論・メモ
ファシズムの予感 : 岩田亨 参議院選の投票日の直前に安倍元首相が銃撃されて死亡。戦前の血盟団を思う。 選挙の結果、改憲派が参議院の議席数の三分の二を超えた。自民党改憲案には、憲法を無力化できる緊急事態条項の創設が明記されている。ナチスの「全権委任法」と同じ。   安倍元首相の国葬で改憲への動きを加速させようという意図が見える。 こうした社会状況を、胸に深く刻んで執筆活動を続けたい。それが「ペンの . . . 本文を読む

蝋梅の咲く歌:尾崎左永子の短歌

2022年09月26日 19時52分49秒 | 尾崎左永子(長澤一作・川島喜代詩)の短歌を読む
・空を背に蝋梅咲けり目に見えぬ標(しめ)あるとき花の空間 「春雪ふたたび」所収。 標(しめ)とは、「目的・目印」の意。蠟梅が咲くのは春先。春の訪れである。作者はどこかの梅林にいるのだろうか。 そこで蠟梅が咲くのを見た。それが「春の訪れ」を目に見えない形で表している、と作者は感じ取った。「花の空間」。美しい響きだ。 情景が目に鮮明に浮かぶ。そして緊張感。ここに作者の独自性がある。 おそらく、梅林だが . . . 本文を読む

夕光(ゆふかげ)の歌:尾崎左永子の短歌

2022年09月25日 19時07分47秒 | 尾崎左永子(長澤一作・川島喜代詩)の短歌を読む
・夕光(ゆふかげ)の鋪道動きゆくわが影が壁に当たりていま立ちあがる「春雪ふたたび」所収。 これも「NHK歌壇」で紹介された作品。 「夕光(ゆふかげ)」は「夕日」のことだが、結句の「いま立ちあがる」にいたく感動した覚えがある。「夕日のあたる鋪道におのが影が映り歩みを進めるにつれ、影が建物の壁に当たり鮮明になる」叙景歌だが、「この鋭さは何だ」と驚愕した。 以前、斎藤茂吉を「黒糖」、佐藤佐太郎を「グラニ . . . 本文を読む

横浜市に中学校給食の実施を!

2022年09月23日 21時42分54秒 | 政治経済論・メモ
  横浜市には中学校給食がない。現在実施されているのは「給食」という名前の「業者弁当」だ。これを「デリバリー方式」という。オカズは冷たく不味い。食べ残しが15%に及ぶ。小学校給食の5%の3倍だ。 「温かいオカズが食べたい」という要望は生徒の間でも、市民の間でも大きい。政令指定都市で中学校給食が実施されていないのは横浜市だけだ。それだけでも驚きなのだが、この状態が半世紀近く続いている。 他の都道府県 . . . 本文を読む

尾を立てる猫の歌:尾崎左永子の短歌

2022年09月22日 20時06分32秒 | 尾崎左永子(長澤一作・川島喜代詩)の短歌を読む
・あらかじめ迫る殺気を絶つごとく猫が尾を立てて行く冬の坂「夕霧峠」所収。 これも「NHK歌壇」で「選者の一首」として紹介された一首。鋭い印象の歌だ。「印象鮮明なるが良し」は斎藤茂吉の言だが、「鋭い印象が鮮明」だ。 この猫の姿は作者にととっても印象的な出来事だったようだ。 印象を鮮明にするのは難しい。焦点を絞らねばならぬ。佐藤佐太郎の言う「表現の限定」作者の言う「言葉の削ぎ落し」。削ぎ落しが少なけれ . . . 本文を読む

花カンナの歌:尾崎左永子の短歌

2022年09月21日 23時11分54秒 | 尾崎左永子(長澤一作・川島喜代詩)の短歌を読む
・秋たけて炎のごとき花カンナ咲たればひと日炎のこころ「星座空間」所有。 「NHK歌壇」の番組では「短歌平成12年10月号」と紹介されていた。そののち「星座空間」に収められた。この歌集は「緊張感があって」と作者が最も気にいっている歌集だ。 場所が「捨象」されている。佐藤佐太郎の「表現の限定」、作者の言う「言葉の削ぎ落し」。「感動の中心を絞る」のが行き届いている。 また、花カンナの鮮明な色が思い浮かぶ . . . 本文を読む

冬時雨の歌:尾崎左永子の短歌

2022年09月20日 19時23分50秒 | 尾崎左永子(長澤一作・川島喜代詩)の短歌を読む
・冬時雨ひととき霰まじへたる音の経過を夜半に聴きゐつ「夕霧峠」所収。 場所が捨象されている。「表現の限定」「言葉のそぎ落とし」「感動の中心を絞って」いるのだ。「夕霧峠」には秀歌が多いが、この一首もそのひとつ。 特に4句目の「音の経過」なかなか出てこない言葉で作者の独自性だ。その作風は佐藤佐太郎とは明かに異なる。同じ「歌論」をもっていれも、独自性は出せると考えさせられる一首だ。 . . . 本文を読む

子守唄の歌:尾崎左永子の短歌

2022年09月18日 20時35分55秒 | 尾崎左永子(長澤一作・川島喜代詩)の短歌を読む
・子守唄聴かせし日すでに遠くして子は冬の帆立てて操りゆけり 「夕霧峠」所収。 子の親離れの歌である。「愚母賢母」の歌とちがい、「娘」を(こ)と読まさずに「子」と表現している。子守唄を聞かせた幼児期を回想しているからだ。 焦点は下の句の「冬の帆立てて操りゆけり」の表現。「夏の帆」ではなく、冷涼感がある。子が親離れをする寂しさを象徴しているようだ。 これは比喩だが、どこの海かは「捨象」されている。「表 . . . 本文を読む

夜のふけの犬の歌:尾崎左永子の短歌

2022年09月17日 19時50分03秒 | 尾崎左永子(長澤一作・川島喜代詩)の短歌を読む
・夜のふけに犬は鎖音ひきて眠りのかたち選びゐるらし「夕霧峠」所収。 場所・地名・犬の種類は「捨象」されている。佐藤佐太郎が言う「表現の限定」だが、作者は「余剰の切り落とし」と呼ぶ。「感動の中心」を明確にするために、「個別具体的なものを捨象」するのだ。  「NHK歌壇」のテキストに、作者が「犬は飼えない」と記述していたので、近隣の犬かと思う。 飼い犬が「眠る時にも、鎖に繋がれるのは、拘束」 . . . 本文を読む

愚母の歌:尾崎左永子の短歌

2022年09月16日 17時37分57秒 | 尾崎左永子(長澤一作・川島喜代詩)の短歌を読む
・愚母賢母まぎれもあらず愚母にして娘(こ)の決断におろおろとゐる 「夕霧峠」所収。 この歌集は作者が「釈超空賞」を受賞したものだ。それだけに秀歌が多い。「愚母」は「愚かな母」、「賢母」は「賢い母」。作者は己を「愚母」という。 これを自虐と思うなかれ。「娘(こ)の決断」。どういう決断かは「捨象」されている。しかし「娘の自立」と容易に判断できる。「巣立つ娘」をまえに、心の動揺を抑えられない作者の姿があ . . . 本文を読む

春の雪の歌:尾崎左永子の短歌

2022年09月15日 21時09分30秒 | 尾崎左永子(長澤一作・川島喜代詩)の短歌を読む
・足らざるを補ふごとく街の上夕べふたたび春の雪ふる 「春雪ふたたび」所収。一読してわかる通り歌集のタイトルのネーミングを示す作品だ。 どこの街かは詠みこまれていない。「捨象」されているのだ。佐藤佐太郎の「表現の限定」である。 春の雪が「まだ降り足りないように」夕暮の街に降る。「足らざるを補ふごとく」という比喩によりそれを言い当てている。作者自身の独自の視点でもある。 「言われてみれば確かにそうだ」 . . . 本文を読む

貧しく生きしものの皺の歌:尾崎左永子の短歌

2022年09月14日 00時13分51秒 | 尾崎左永子(長澤一作・川島喜代詩)の短歌を読む
・ブロッコリの青き球実(たまみ)を選びゐる老いし手貧しく生きしものの皺「彩紅帖」所収。作者は夫君の出張に伴って渡米した。1960年代の末だった。夫君のハーバード大学への留学のためボストンに滞在。そこで目撃した「黒人街」の一首である。 東京育ちの作者には驚きだったろう。「公民権運動」の始まる前。社会からの人種差別の創造に絶する。作者の社会詠といえる。 地名と時刻は捨象されている。「表現の限定」がここ . . . 本文を読む