蒲郡の旧ホテル、立ち退き強制執行へ
2012年5月15日 09時58分
土地明け渡しの強制執行手続きに入ることが決まった旧蒲郡ふきぬき観光ホテル=14日、愛知県蒲郡市三谷町で |
愛知県蒲郡市の三谷温泉・旧蒲郡ふきぬき観光ホテル跡地をめぐり、名古屋地裁豊橋支部は21日、建物の利用を続けている宗教法人聖法寺(愛知県岡 崎市)に対し、土地の明け渡しと建物撤去を求める強制執行に着手する。土地所有者の三谷町財産区(管理者・稲葉正吉蒲郡市長)が地裁支部に申し立て、支部 が一定期間内に退去するよう通知する。
蒲郡有数の宿泊施設だった旧ふきぬきホテルは1998年に破産。聖法寺が2004年に建物を購入 し、土地を借りる契約を財産区と年約380万円で結んだ。07年度から支払いが滞り、財産区が10年に土地明け渡しなどを求めて提訴。昨年9月に勝訴が確 定したが、履行されていない。
聖法寺の天野明代表(66)らによると、研修や葬祭会場として貸す事業を行う予定だったがうまくいかず、 07年ごろから1泊1200円で客室を貸すように。現在は年金生活者ら20~30人が住む。天野代表は「撤去の日が決まっていないのに出て行けとは言えな い。撤去費用もなく、破産するしかない」と話す。
財産区の管理事務をする蒲郡市の井沢勝明総務部長は「判決確定から半年以上過ぎた。放置すると観光への影響も懸念され、強制執行を求めざるを得なかった」と説明する。
(中日新聞)
混乱続く大型ホテル跡地-東日新聞 | |
名古屋地裁豊橋支部は2011年9月、ホテル跡の建物を買い取っていた岡崎市の宗教法人に対し、地代の長期不払いを理由に建物を取り壊して土地を明け渡すよう判決を下した。宗教法人は期限までに控訴しなかったため、判決が確定した。 だが、被告側の宗教法人が施設を「廻向精舎」と名付け、研修所や研さん場、宿坊などの宗教施設として利用するとしていたにもかかわらず、人材派遣業者の 宿舎やNPO(民間非営利団体)法人が経営するデイサービス施設に転貸し。そのため、市は入居者を強制的に退去させるなどの強硬手段をとることができず、 現在も不法占拠の状況が続いている。 加えて、悪質な業者が絡んで生活保護の受給者などが入居しているケースもあるという。 戦前に創業した「ふきぬき」は、戦後の高度経済成長の波に乗って国内観光旅行が急成長したのに伴って施設の大型化や増設を重ねた。倒産前には最高17階 建ての宿泊施設7棟を数え、団体客用の部屋数751、収容人数1000人もの県内最大級の大型温泉ホテルとして君臨した。 温泉ブームに乗って趣向を凝らした大浴場の水車風呂が有名となったり、テレビ番組で有名になった中華料理のシェフが館内に出店したこともあるなど、温泉郷を代表するホテルとして積極的な経営手法を展開した。 しかし、バブルの崩壊や長引く景気の低迷で国内の団体旅行が大きく落ち込むと、過剰な大型化や無理な増改築(投資)が裏目に出た。赤字経営が続いたため資金繰りに行き詰まり、あえなく倒産。累積の赤字額は30数億円に上った。 倒産直前に転売目的の暴力団がらみの企業に乗り込まれたが、買い手が見つからず結局は放置された。心霊スポットとしてインターネットで紹介されたり、不審者に侵入されてぼや騒ぎを起こすなどしたため、市に苦情が殺到したこともあった。 デイサービスの利用者については、市内の他施設に余裕があるため移ってもらうことが可能だとしているが、宿舎として利用している人や生活保護の受給者を無理やり退去させるのは、人道上容易ではない。 宗教法人のこれまでの対応や経営状況からは、多額となった地代の滞納分や、約1億7000万円と見積もられている、建物の取り壊し費用を負担できるはずはなく、当面は入居者の退去を最優先させるしかない。 生活環境の劣悪な状態がこれ以上続くのは、観光地としての温泉街にとって致命的になりかねず、周辺住民にとっても受け入れ難い状況だ。 仮に更地となって市に返ってきたとしても、ほかに利用する当てはない。市街化調整区域のため開発には制約が伴い、公共的な施設や新たな建築物は建てられないのが実情だ。(佐藤芳久) |