久々に小林よしのり批判。小林は今号(SAPIO 2012/2/22)で放射線ホルミシス説を批判しているが・・・
>そもそも「放射線ホルミシス説」は、アメリカの学者が、広島・長崎の被爆者について、「爆心地から離れた場所で被曝した人は、かえって健康が増進した」と唱えたのが始まりである。アメリカ人が原爆投下の正当化のためにひねり出した詭弁ではないか!(58p)
放射線ホルミシス(2012-02-16 23:30)
>放射線ホルミシス効果とは、1980年にミズーリ大学のトーマス・D・ラッキー生化学教授が、自らは実験や研究を行っていないが、20世紀初頭から知られていた一時的な低線量の放射線による生物の各種刺激効果を、改めて他の多くの研究者の研究原著論文をCRC Pressから出版された本の中で紹介、整理することによって使用した言葉であり、アメリカ保健物理学会誌1982年12月号に掲載された総説によって提唱された学説である。この仮説では、一時的な低線量の放射線照射は、体のさまざまな活動を活性化するとされる。ラッキーは小論文『原爆の健康効用』を発表し、原爆は健康を促進した面があるとしている。
トーマス・ラッキー(2012-02-17 00:30)
>1946年‐1954年、ノートルダム大学助教授、准教授。1954年‐1968年、ミズーリ大学コロンビア校生化学講座主任教授。のち同大学名誉教授。1968年NASAの宇宙飛行士に講義をしたのをきっかけにアポロ計画に協力し、アポロ11-17号ののべ17のミッションで栄養学コンサルタントを務めた。
>1959年、あらゆる劇薬などの少量投与がもたらす促進作用を指すホルミシスという言葉に遭遇。文献を調べてみると、物理的、化学的、生物的な薬剤の少量投与が促進効果を示す事例が大量に存在していることが分かったという。地上の数百倍の宇宙放射線環境内での安全性を追求する中で、適度の放射線被曝は「人体に恩恵をもたらす」可能性を発見し、1980年、放射線のホルミシスに関するものをまとめた Radiation hormesis (『放射線ホルミシス』)という仮説を発表した。
小林の批判しているアメリカの学者とはトーマス・ラッキー氏だと思うが、放射線ホルミシス説は寧ろアポロ計画との関連で出てきたと言っていいだろう。加えて、アメリカ科学アカデミーはしきい値なし説で放射線ホルミシス説は元より(フランス科学・医学アカデミーなどの)しきい値あり説に比べて放射線の脅威を大きく見る立場である。小林の見方は穿ち過ぎである。
放射線ホルミシス説自体は以前このブログで取り上げたが、残念ながら、あまり有力な説ではないようである(逆にしきい値なし説より放射線の影響を大きく見る立場も有力ではない)。しきい値なし仮説が現在の主流と言っていいと思うが、しきい値あり仮説もそれなりに有力であるように見える。(「低線量放射先と健康影響」医療科学社 2007参照)
>放射能と言えば「発癌リスク」ばかりが言われるが、これも放射能の危険性を過小評価させるためのトリックである。実際にチェルノブイリ原発事故から25年が経った現在、顕著になってきたのは、癌以外の健康被害、そして平均寿命の低下なのである。(59p)
社会実情データ図録 ロシアの平均寿命の推移
平均寿命の低下は別に原因があると言い切っていいと思う。旧ソ連圏ではアルコールの過剰摂取などで平均寿命が下がったとされ、単純にソ連崩壊と関連しているだろう。また、チェルノブイリの事故の健康影響に関して小林が拠った調査だが、名前の出ている広河隆一(リンク先はウィキペディア)氏はパレスチナが専門と言っていいジャーナリストである。大体、癌が取り上げられるのはそれが大きい問題だからなのであって、またも小林は穿ち過ぎである。
>自称保守派は「脱原発」を「非現実的」な主張だと思っているようだ。(60p)
何度も繰り返し指摘してきたが、初期投資が高い原発を全て廃炉にするのは非現実的である(コストがかかり過ぎる)。小林の言ってきた火力(や節電)で足りるという主張は高すぎる燃料費に苦しめられるだけであり(そうでなくても日本経済は危機である)、ランニングコストが安い原発の再稼動が経済性が高いことはあまりにも明らかである(新設の場合のコスト比較でも火力に比べて原発が特にコスト競争力が劣るとされていない)。コストの問題は再稼動の是非を言っているのか、新設の場合を言っているのかで全然違ってくるので、小林がそこに触れずにコストを論じるのはそれだけで失格と言っていい。
>そもそも「放射線ホルミシス説」は、アメリカの学者が、広島・長崎の被爆者について、「爆心地から離れた場所で被曝した人は、かえって健康が増進した」と唱えたのが始まりである。アメリカ人が原爆投下の正当化のためにひねり出した詭弁ではないか!(58p)
放射線ホルミシス(2012-02-16 23:30)
>放射線ホルミシス効果とは、1980年にミズーリ大学のトーマス・D・ラッキー生化学教授が、自らは実験や研究を行っていないが、20世紀初頭から知られていた一時的な低線量の放射線による生物の各種刺激効果を、改めて他の多くの研究者の研究原著論文をCRC Pressから出版された本の中で紹介、整理することによって使用した言葉であり、アメリカ保健物理学会誌1982年12月号に掲載された総説によって提唱された学説である。この仮説では、一時的な低線量の放射線照射は、体のさまざまな活動を活性化するとされる。ラッキーは小論文『原爆の健康効用』を発表し、原爆は健康を促進した面があるとしている。
トーマス・ラッキー(2012-02-17 00:30)
>1946年‐1954年、ノートルダム大学助教授、准教授。1954年‐1968年、ミズーリ大学コロンビア校生化学講座主任教授。のち同大学名誉教授。1968年NASAの宇宙飛行士に講義をしたのをきっかけにアポロ計画に協力し、アポロ11-17号ののべ17のミッションで栄養学コンサルタントを務めた。
>1959年、あらゆる劇薬などの少量投与がもたらす促進作用を指すホルミシスという言葉に遭遇。文献を調べてみると、物理的、化学的、生物的な薬剤の少量投与が促進効果を示す事例が大量に存在していることが分かったという。地上の数百倍の宇宙放射線環境内での安全性を追求する中で、適度の放射線被曝は「人体に恩恵をもたらす」可能性を発見し、1980年、放射線のホルミシスに関するものをまとめた Radiation hormesis (『放射線ホルミシス』)という仮説を発表した。
小林の批判しているアメリカの学者とはトーマス・ラッキー氏だと思うが、放射線ホルミシス説は寧ろアポロ計画との関連で出てきたと言っていいだろう。加えて、アメリカ科学アカデミーはしきい値なし説で放射線ホルミシス説は元より(フランス科学・医学アカデミーなどの)しきい値あり説に比べて放射線の脅威を大きく見る立場である。小林の見方は穿ち過ぎである。
放射線ホルミシス説自体は以前このブログで取り上げたが、残念ながら、あまり有力な説ではないようである(逆にしきい値なし説より放射線の影響を大きく見る立場も有力ではない)。しきい値なし仮説が現在の主流と言っていいと思うが、しきい値あり仮説もそれなりに有力であるように見える。(「低線量放射先と健康影響」医療科学社 2007参照)
>放射能と言えば「発癌リスク」ばかりが言われるが、これも放射能の危険性を過小評価させるためのトリックである。実際にチェルノブイリ原発事故から25年が経った現在、顕著になってきたのは、癌以外の健康被害、そして平均寿命の低下なのである。(59p)
社会実情データ図録 ロシアの平均寿命の推移
平均寿命の低下は別に原因があると言い切っていいと思う。旧ソ連圏ではアルコールの過剰摂取などで平均寿命が下がったとされ、単純にソ連崩壊と関連しているだろう。また、チェルノブイリの事故の健康影響に関して小林が拠った調査だが、名前の出ている広河隆一(リンク先はウィキペディア)氏はパレスチナが専門と言っていいジャーナリストである。大体、癌が取り上げられるのはそれが大きい問題だからなのであって、またも小林は穿ち過ぎである。
>自称保守派は「脱原発」を「非現実的」な主張だと思っているようだ。(60p)
何度も繰り返し指摘してきたが、初期投資が高い原発を全て廃炉にするのは非現実的である(コストがかかり過ぎる)。小林の言ってきた火力(や節電)で足りるという主張は高すぎる燃料費に苦しめられるだけであり(そうでなくても日本経済は危機である)、ランニングコストが安い原発の再稼動が経済性が高いことはあまりにも明らかである(新設の場合のコスト比較でも火力に比べて原発が特にコスト競争力が劣るとされていない)。コストの問題は再稼動の是非を言っているのか、新設の場合を言っているのかで全然違ってくるので、小林がそこに触れずにコストを論じるのはそれだけで失格と言っていい。