鄙びた温泉好きで、貧乏漫画やシュールな漫画を描かせたら天下一品のつげ義春です。
引っ込み思案でやる気がなくて、本業の漫画の仕事が超寡作なので、古道具屋から中古のカメラを仕入れて修理し通信販売をしたときもあります。
本気で川原の石を拾ってコレクションする「水石趣味」まで持っているのです。
そのへんのところは「無能の人」という漫画にも出てきます。
主人公が多摩川で探石しその場に小屋を構えて石を売るという本当にありそうで
現実にはないお話です。
細長い石に「孤舟」と名づけ、冷かしに来たテキ屋に
「こりゃいいや、まるで俺のようだ!」と呟かれます。
川原で拾えるので元手が要らない商売、つげ義春が心底憧れていた仕事だったのだと思います。
つげ義春は昭和35年「コケシ」というあだ名の女性と同棲します。
貸本漫画を描いていた本人は原稿料が安くどん底の生活に甘んじていました。
そこで彼女が貸本屋の店員として働きますが、店の馴染み客と不倫をしてしまいます。
貧困が女の心を歪ませることはよくあるケースで、つげは貧窮に喘がせている彼女を責めることなく静かに身を引いたのでした。
彼女と別れ、いくら頑張っても生活の成り立たない貸本屋業に絶望して、生きているのが面倒くさくなり自殺未遂まで行ないました。
彼の人生は波乱万丈で決して幸せだとはいえません。現在もどんな便利なものへも興味がなく、全て捨てて仙人になることを願っているのです。
彼の生き方がどこか太宰治に似ているなと感じるのは私だけでしょうか。
彼の暗澹たる人生や、すべてのマイナス志向に賛同する根強いファンがいるのも事実です。