ワニなつノート

最後の就学相談会(その7)



第七話
《ふつう学級は安心できる場所なの?》




《子どもを大事にしてないって、本気で思ってるの?》

そうじゃない、そうじゃないけど・・・。


《でも子どもの気持ちを分かってないって、思ってるんでしょ?》

それは・・・。


《ふつう学級は本当に安心できる場所なの?》

そうじゃなきゃいけないんだ。


《あなたは守れるの?》

・・・・


《子どもの気持ちが分かっても、どうにもならないことだってあるのよ》


知ってる。そんなこと知ってる。
8歳の時から知ってる。
もっと前から、嫌というほど知ってる。


悪い子の私のせいで、責められたのは母親だった。
私が悪い子の度、追いつめられたのは母親だった。
酒で暴れる夫と悪い子を抱えて、母親は実家も誰も頼らなかった。


私が悪い子になるずっと前から、母親は一人だった。
私の中に、母親の背中にいたころの記憶がある。
身体が揺れるリズムと川の流れが重なる記憶がある。
「お前がいたから飛び込めなかった」と何度も聞かされた。



《子どもの気持ちが分かっても、どうにもならないことだってあるのよ》


知ってる。そんなこと知ってる。

8歳の時から知ってる。

あの時、私の必死の思いを、親が知らなかったなんて思わない。

でも、どうにもならないことだってある。

知ってる。そんなこと知ってる。



《ふつう学級は本当に安心できる場所なの?》

だから、そうじゃなきゃいけないんだ。

《あなたは守れるの?》

だから、ここにいる。



「みんなといっしょにいたい」。そんな当たり前の子どもの願いを、一人母親に背負わせるのがおかしいんだ。

たかが、地域の学校に行くことに、どうして母親が怖れなきゃいけない?

たかが、ふつう学級に行くのに、「本当に安心できる場所なの?」となぜ立ち止まる?

他のきょうだいが学校に行くときに、そんな怖れはないのに。

「怖れながら」一年生を待っている子なんか、他にいないのに。




《ふつう学級は安心できる場所なの?》

その問いをなくしたいんだよ。

《あなたは守れるの?》

守れなかったことがある。

だから。。。

その問いを、なくしたいんだよ。


(つづく)




次の就学相談会まであと6日。
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