「殺さないで」という子ども虐待の連載記事が、「障害児者としての被虐待児の生活の問題で終わっています。
この連載に込められた「すべての子どもを守りたい」という切なる願いと、最終回の次の言葉の置かれた「位置」との間に、私はとてつもない違和感と距離を感じます。
【施設の職員は「恐らくずっと寝たきり。18歳を過ぎたら重症心身障害者施設の空きを待つことになるでしょう」と話す。】
この言葉の「扱い方」が、私が長い間、子どもの問題を語るときに感じてきた最大の気持ち悪さの一つです。
【この連載は野倉、伊藤、式守、大野、上野が担当しました。】とあります。最後の記事を書いたのは、このなかの誰か一人でしょう。でも、こんなにも大切な連載の最後のここの部分に、「誰も異論」を唱えず、「別の書き方」をしようという人はいなかったのでしょう。そういう意味では誰でも同じことです。
私自身が、児相の一時保護所と自立支援ホームで仕事をしているときに、もっともなじめなかった「常識」のひとつが、この問題に関わることでした。
私が、こんなところで、こんなことを言っても、何にもならないことは分かっているけれど、この記事の「終わり方」は、あまりに情けない…。
「殺さないで」という連載記事は、生まれてきた「すべての子どもの命」を守りたい、ということだと思ってきました。
でも、その「虐待」された子どもが、「障害児」の場合、または、虐待のために健常な子どもが「障害児」に「なってしまったら」、養護施設ではなく、障害児だけが集められた施設が当然のことのように、話が進められるのはなぜなんだろう。
「障害者」を分け、「障害児」を分けてきた学校が、その常識と感性を支えているのは明らかなことだと、私には思えます。
私に言わせれば、この問題こそが、就学猶予・免除、養護学校、特殊学級は、「間違いだった」ことの結果です。そして、「特別支援教育」も、根本的なところが間違いなのです。
虐待され、親や家族と暮らせない子ども、親や家族がいない子どもたちを、社会が「わたしたちの子ども」として、保護し、安全と安心を届けたいと願うなら、いまのような「大きな施設」をまずなくしていかなくてはならないし、ふつうの家に近い小さな施設に、障害のある子も、ふつうに生活できる「いえ」も、当たり前に準備されるべきなのです。
親がいない子どもや、虐待や様々な事情で親や家族と離れて暮らす子どものこころを、大事にする「小さな家」を思い描くとき、その子どもを「障害」のある、なし、で分ける発想がない、人や施設がもっともっとあるべきだと思うのです。
まして、親からの虐待で、障害を負った子どもが、保護され生きる場所が、障害の程度によって「分けられる」こと。
その「大人」の「考え方」「常識と感性」では、その虐待された子どもたちにほんとうには、安心をあげることができないと私は思うのです。
子どもとつきあう仕事を、すべてなくしてしまったわたしが、ここで、こんなことを書いても、何にもならないことはわかっているけれど…。
生まれる前から分けられ、生まれてすぐに分けられ、半年や一年の検診で、保育園で、幼稚園で、学校で、高校で、いつもいつも、最後の最後に扱われる子どもが、重度の障害児でした。
高校では「定員」が空いていてさえ不合格にされます。
列の一番最後に並んでいても、目の前で、門を閉められるのです。
そして、子どもの虐待の問題。
大好きな親から虐待されてしまった子どもたちに、私たちがいかに手をかすことができるのかを考えるとき、その子どもへのまなざしと扱いが、「障害」の有無によって変わるということ。
その「障害」が、親から虐待されたための後遺症であっても、やはり「障害児」がいちばん最後に並ばされる感じがするのは、私の思い込みだろうか…。
わたしは、障害をもった子どもとふつうに生活してきた子どもたちの中から、いつかきっとこんな声があがると信じています。
「親と暮らせない事情のある子どもを保護するのに、《障害の有無》なんかで、扱いを変えるのはおかしいよ。
それがダウン症でも、脳性まひでも、自閉症でも、そうした子どもを育てたことのある里親や、そうした子どもとふつうに子どもの時から育ち合ってきた施設職員なら、おなじ「小さな施設」で、親が亡くなった子どもも、親に虐待された子どもも、生まれたときから障害のある子どもも、親の虐待の後遺症で障害を持つことになった子どもも、子どもが子どもであることになんの違いもないじゃない。
ふつうに、里親や養護施設で共に育ち、その地域の小学校に通えばいい」と。
そういうことが、当たり前だと感じる子どもたちが、少しずつ少しずつ育っていくのだと、私は信じているのです。
□ □ □
【殺さないで:児童虐待防止法10年】(全5回)の全記事は「ワニなつ2」にありますが、ここには、連載の最初と、最終回のみを置きます。
【殺さないで:児童虐待防止法10年/1】
2歳、ごみ箱で窒息死
ひざを曲げられ、肉のそげたおなかにももが押しつけられる。ごみ箱の中は狭く、男児の体にキャベツの芯と紙くずが張り付いた。
08年12月23日未明、・・優衣ちゃん(当時2歳)が父親に押し込められたごみ箱は、ベランダでポリ袋をかぶせられ、物干し置き場にゴムひもで固定された。
母親がごみ箱を室内に戻した後も夕方近くまで放置され、優衣ちゃんは窒息死した。
虐待は優衣ちゃんが1歳半ごろに始まった。
「育てにくい子」と両親は自閉症を疑ったが、医師の診察は受けさせなかった。
裁判で・・被告は、夫からの暴力のため虐待に逆らえなかったと主張。
しかし、携帯電話で夫に「バカの餌も終わった」とメールし、夫のいない時も優衣ちゃんを縛っていた。
【殺さないで:児童虐待防止法10年/5】
◇障害児施設、対応追われ
昼下がりのおやつの時間。木のいすにベルトで体を固定された小学生の男児がクレープをかんでいた。虐待で負った障害のため、固定なしでは座っていることができない。
肩をなでると顔を上げ、伸びきらない左手で記者の指を握り返した。
男児が首都圏の障害児施設に来たのは2年前だった。
未熟児で生まれ、病院の新生児集中治療室から無事に親元へ戻って2カ月後、けいれんを起こして再び受診。
急性硬膜下血腫や脳浮腫が見つかり、乳幼児揺さぶられ症候群と診断された。
家庭内での虐待が疑われたため病院が児童相談所に通告し、乳児院に保護された。
今も親元から離れたまま施設で暮らす。
男児は女性職員に高く抱き上げられると笑い、好きな食べ物は口いっぱいほおばる。
だが、重い知的障害で言葉が出ず、手足のまひで立てない。将来も歩くのは難しいという。
別の3歳男児は昼食後、クッションチェアにうつぶせになって寝息を立てていた。
早産で生まれ、集中治療室から親元へ戻ったが、2週間後に激しく嘔吐。
病院で乳幼児揺さぶられ症候群と診断された。
虐待が疑われ、乳児院を経て今年、施設に来た。
両親は面会に来ないままだ。
入所の際、医師らは3歳児の脳のCT(コンピューター断層撮影)画像に絶句した。
揺さぶられによるとみられる衝撃で極端に萎縮していたからだ。
男児は首が据わらず、全身の介助が必要で、視覚の反応がない。
施設の職員は「恐らくずっと寝たきり。18歳を過ぎたら重症心身障害者施設の空きを待つことになるでしょう」と話す。
厚生労働省研究班の調査では07年度、全国の児相と児童福祉施設が把握した乳幼児揺さぶられ症候群の子供は疑いも含め118人。
うち8人が死亡し、34人に後遺症があった。
重症心身障害児者施設や肢体不自由児施設でも、本来の役割と違う虐待からの保護目的での入所が増え、対応に追われる。
心身障害児総合医療療育センター(東京都)の米山明医師は「虐待の後遺障害で移動や自力呼吸もできず、言葉も出ず、受けた傷や痛みを表現できない子も少なくない」と指摘する。
各地の施設では、先天的な障害があることで虐待を受けたとみられる入所児も増えている。
別の同省研究班の調査によると、障害児が虐待を受ける割合は健常児の4~10倍と推計されるという。
米山医師は「努力して施設から自立する子もいるが、社会でつまずいても家庭に頼れず、独り立ちには何倍ものハンディを抱える。心理面のケア充実が不可欠」と話す。養育放棄されて施設から普通校に通い、卒業後に大手企業に就職したものの職場でいじめに遭い、薬の依存症と格闘する施設出身者もいる。
首都圏の施設に20年以上勤めるベテラン職員は言う。「虐待を受けた子供たちは、親が自分の人生をうまく生きられなかった痛みや苦しみを心と体で引き受けている。傷つきながら、全身で背負い続けている」=おわり
◇
毎日新聞 2010年6月5日 東京朝刊
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