《ふつう学級と援助ホーム》
昨年暮れ、「障がいのある人の性支援ガイドブック」という本を紹介した。
「障がいのある人の社会的自立を支援するためには、性的自立も支援する必要がある」という言葉はまっとうであり、新鮮だった。
また、性に対する支援は「特殊な支援」ではなく、単に「性風俗に連れて行く」という安易な発想でもなく、「障がいのある人が自尊感情をきちんと育むための前提となる人間関係と生活環境を整備すること」とも書かれていた。
私にとって、「自尊感情をきちんと育む人間関係と生活環境」は、まさに「ふつう学級」であり、「ふつう高校」のことと思えた。
就学相談会で出会う幼い子どもが、成長して大人になり、「性」とどう向き合うか。
そのとき、「ふつう学級」はどういう意味を持つのか。
子ども時代に分けられることは、「性」の問題とどう関わるのか。
そんなふうに考えながら読んでいた。
ところが、214ページで全く違う感覚に変わった。
◇
《「障がい者専門」スカウトマンの説く「福祉」》
【特別支援学校の教師である宇多野さん(51歳・男性)は、知的障がいや発達障がいの生徒が、学校を卒業した後に、家庭や地域での居場所の無さゆえに、キャバクラやホスト、性風俗などの夜の世界に流れて行ってしまうことに対して、「どうすれば、彼ら・彼女らを夜の世界に踏み込ませないことができるだろうか」と強い危機感を持っていました。
ある日、宇多野さんは、…風俗スカウトマンの哲也さん(36歳・男性)に会う機会がありました。
…哲也さんは「障がい者専門」のスカウトマンで、知的障がいや精神障がいのある女性を繁華街の路上やインターネットのSNSでキャッチしてAVや性風俗の仕事をするように勧誘し、彼女たちが稼いだお金をピンハネして生計を立てている、とのこと。……
哲也さんは、自分の仕事を「人助け」「慈善事業」だと言い切ります。
「障がいを持っている女は、性風俗やAVの現場でもトラブルを起こすヤツが多いので、誰も面倒を見ようとしない。
しかし誰も面倒を見なかったら、そいつらは生きていくことができないじゃないですか。
性風俗で働くような障がいを持った女は、たいてい家族からも見放されていたり、親からのネグレクトや性的虐待を受けていたり、児童養護施設や自立援助ホームからも逃げ出してきている場合が多いから、帰る場所がどこにも無い。
放っておけば、路上でのたれ死ぬしかない。自分たちのようなスカウトマンがいるからこそ、彼女たちは生きていけるんですよ」と哲也さんは静かに語ります。】
(「障がいのある人の性支援ガイドブック」橋爪真吾 中央法規)
◇
このページの「自立援助ホームからも逃げ出してきて」という一行で、私はいっぺんに「私自身」に引き戻された。
「私」が子どもをホームから「追い出した」朝の寒さを感じた。
6年前の冬、「出ていけばいいんでしょ!」と言って、その子は出ていった。
引き止める力が私にはなかった。
私の「いることの能力」は、彼女を引き止めることができなかった。
そして、この本を読んでいるときも、私は「同じ状況」にいた。
それから一カ月余り。私は同じ失敗をしないですんでいる。
自分の「いることの能力」が少し穏やかになれたのを感じる。
穏やかさをくれたのは、6年前に出ていった子だ。
2年の空白はあったが、今も誕生日にはメールをし、一緒に食事できることが、私を支える。
「分けない」つながり、「切れない」つながりを、「いまここ」で大事にすること。
その先にしか、希望はない。そうおもう。
◇
ホーム(施設)は、子どもが来たい所ではない。
家をなくした子が、他に行くあてがなく、仕方なく来るところだ。
帰れる家があるなら、守ってくれる家族がいるなら、家にいるのが当たり前だ。
子どもにとって、ふつう学級は、家と同じだと私は感じている
帰れる場所があるなら、守ってくれる仲間がいるなら、ふつう学級にいられるのは当たり前だ。
「障害児」だからじゃない、「子ども」だから。
私たちが、障害の種類や程度を問わないのは、「子ども」であることは誰も同じだから。
家を失くした子に、ホーム(施設)はどんな居場所であり得るだろう。
「ふつう学級」を失くした子に、「特別支援教育」はどんな居場所であり得るだろう。
(つづく)
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