今日、家の本棚からふっと手にしたのは、『国家に病む人びと』。
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「…基本的に二者関係である以上、私たちはまず相手国の文化を理解しなければならない。」(P75)
◇
「相手国の文化」とは、相手の歴史、生活の日々のこと。
たとえば、「見えない」「聞こえない」「歩けない」「言葉を話せない」子どもとして、どのような1歳の生活をしてきたのか、2歳、3歳、5歳、6歳、…。
必要な援助を、どんなふうに手に入れてきたのか、手にできなかったのか。
子どもに必要な友だちと、どんなふうに出会い遊んできたのか、友だちと出会えないできたのか。
子どもに必要な家族と、どんなふうに暮らしてきたのか、家族と出会えないできたのか。
どんな空を見たことがあるのか、どんな風を感じてきたのか、どんな食べ物が好きか。
「相手国の文化」の理解とは、「障害の程度」の理解ではありません。
特別支援教育に決定的に足りないのは、一人の子どもを、ふつうの子どもとみる視点です。
今の私に足りないのは、ホームに来る前の子どもたちの「子ども時代の文化」を、まだほとんど知らないということです。
『(り)・理解は後からついてくる』のだとすれば、その理解がついてくる、までの日々の生活で、私がどんなふうに、ここにいるかが、問われるのでしょう。
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「相手を理解しようとする姿勢なしに二者関係が成り立たないのは、個人の場合でも国家や民族の場合でも同じである。よく理解された者は、理解してくれた相手に好意を抱く。」(P75)
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「相手を理解しようとする姿勢」が大切だと頭で分かるのは、難しくはありません。
難しいのは、「理解できるようになるまでの時間」のあいだ、どんな「姿勢」で、「いる」のかということです。
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「他文化理解のためには自己主張を捨て、さらに相手との比較の視点も傍らに置き、まず相手の側に立って彼ら自身を、そして外の文化を見てみる必要がある。他者理解、共感はそこから生まれてくる。」(P75)
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就学相談会で、必ず聞かれる質問に、「45分、座っていられるだろうか」があります。
「45分座るのが、学校に行く目的でもないけれど、みんなが座っている教室が、自分の居場所だと感じられて、みんなと一緒に授業という生活をすることだと、子ども自身が理解すれば、座っているようになると思う。それが、入学後すぐなのか、5月なのか、夏休み明けなのか、2年生なのか、3年生なのか、少なくとも次のオリンピックかサッカーのワールドカップには、片付いていると思う」
私はいつもそんなふうに話しています。
「自己主張を捨て、…まず相手の側に立って彼ら自身をみる」か。
こう考えてみると、子どもが45分座っていられるかというその中身よりも、「授業中は座っていなければならない」という「自己主張」をどれだけ捨てられるか、なんだな。
ホームにきた子どもたちが、これから一人で働いて、お金を貯めて、数年後には、一人生活を始めるために、いま、私(たち)が、しなければいけないこと。
「自己主張」を捨てること、
それが難しいんだな。
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「二者間の比較、利害の考察、および自己主張はその後のことである。」
「順序は相手の理解、相互関係の考察、主張の順であって、逆ではない。」(P76)
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「逆ではない」
そうだよな。
子どものころは知らなかったこと。
でも、大人になって、「ただ地域の小学校にいたい」という、たったそれだけの「願い」を奪われる子どもたちと付き合いながら、「逆ではない」ことを教えられてきました。
でも、いくつになっても、自分とは別の人と出会い、関係を築いていくときに、いちばん難しいのが、「逆ではない」ってことかもしれないな。
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「また相手の理解は、相互の関係を良くするための方法であるだけでなく、私たちの生きている喜びそのものでもある。異質な文化、多様な文化を知ることこそ楽しい。」(P76)
『国家に病む人びと』野田正彰 中央公論社
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6年前、一度、子どもの仕事から離れて以来、私をまるごと支えてくれたのは、出会った子どもたちの顔や声や一瞬の物語でした。
それがあったから、私はもう一度、子どもの仕事に戻ってこれたのだと思います。
以前、ブログに書いた「コータ」の声が、いまも毎日、私を支えてくれています。
私の経験の中でも、もっとも相性の悪かったクソガキ(o|o)
いま、17か18かな。
ここにいる子どもたちと同じ年頃。
どこかで、彼も同じように自立を目指して暮らしているんだろうな。
彼に、会いたいな。
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