「みっけ」という言葉が、いつも頭から離れなくなったのはここ半年くらい。
言葉の響きは、かくれんぼのときの「みっけ」。
それと、娘が小さいころに何度も一緒に読んだ絵本のシリーズ、『ミッケ』。
『在宅ホスピスノート』を読んでいるときも、何度も心の中でつぶやいた。
これも、「みっけ」の物語だとおもった。
◇
【…「相談室に61歳の女性が娘さんと来られました」
〈まちのがん相談室〉担当のFナースが言う。
61歳の女性は、肺の腺がん。…
「家はどこですか?」と尋ねると、「網代」と。
海のそばにある村で、診療所のある鳥取市から東へ15キロ、車で25分。
少し遠いが、二人の顔と海の近くということが頭で交錯し、「在宅往診、訪問看護で行かせてもらいますから」と迷わずに答えた。
訪問看護師たちも「行きます、行かせてほしいです」ときっぱりと言う。
「え、いいですか、遠いですよ。でも助かります。最近歩行がたよりないし、歩いても息が切れますから」と三女。
「家でやっていけます、やってみましょう」。
三女は笑顔で頷き、道子さんも苦笑いのような顔で頷いていた。
大切なことは、医療者が「よし」と引き受けること。
「放っておけない」と思うこと。
「何とかなる」と根拠のない自信を持つこと。
どこでそう思えるかは、いろんな要因があるので一概には言えないが、まず言えることは、「会う」以前にはそういう決断は難しいということ。
会うって、すごいことだ。】
◇
【…山田さんは53歳だった。
奥さんと、二人の娘さんと暮らしていた。
初診が2年前。中咽頭がん。大学病院で治療を受け、咽頭全摘もしたが、頸部リンパ節転移と多発肝転移を生じ、食事は少量しか入らず、やせて在宅往診、訪問看護となった。
市内に近く、以前に往診で走った谷の集落に家はあった。
初めて往診すると、布団から起きて、額を畳にすりつけ、両手を合わせ、「どうぞよろしく、どうぞよろしく」と口を動かされた。
「こちらこそ」とぼくも座り直して一礼した。
医療者が決心するのは、目の前のわずかな仕草、わずかな表情、わずかな言葉からだ。
「なんとかして力にならないといけない、力にならせてもらわないといけない」という決心は、そんな些細なことから始まる。】
(『在宅ホスピスノート』 徳永進 講談社)
◇
『目の前のわずかな仕草、わずかな表情、わずかな言葉』
『「会う」以前にはそういう決断は難しい。』
【り】 「理解はあとからついてくる」
【り】 「理解は、この子がつくるもの」
どれも、私のなかで、「みっけ」と声がきこえる。
(つづく)
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