とても大切な「意見書」が提起されているので紹介します。
◇ ◇ ◇
『成年後見人制度に対する意見書』
~ハンディがある人の
人権と尊厳を守るために~
現在の成年後見制度は、ハンディがある人にとって当事者の人権と尊厳を守るためのものになっていないことに、私たちは強い危惧を感じています。献身的な後見人の活動がある一方で、ハンディがある当事者の意思を無視し、尊厳を損なう後見人の行為が多々あります。
私たちは、ハンディがある人の人権と尊厳を守るために、成年後見制度をあらためる必要があると考えます。後見制度の実際の運用がどのように行われているかを検証して、その上で、当事者の意思に添う形で人生を支えるシステムが構築されるべきです。
当事者の人権と尊厳を守るために、成年後見制度変わるべきかの意見をここに述べます。
◇成年後見人がつくことによって、収容施設に入所させられた人がいます
両親が亡くなった後に兄弟姉妹の家庭裁判所への申し立てによって、知的ハンディがある人に後見人がつく場合が多くあります。
このとき往々にして、当事者の意思やそれまで関わりを持っていた人たちの意見が採り入れられずに、兄弟姉妹の意向や後見人の判断によって、生活施設(収容施設)への入所手続きがなされています。
全国各所においてこのような事例を見ることができます。
当事者がそれまでの住居や地域での生活の継続を望んでいたにもかかわらず、後見人にその意思を無視されて居所が決められるという現実があります。成年後見制度によって収容施設生活への入所を強いている事実があることは、福祉の流れであるインクルージョンの方向に逆行しています。
ハンディがある人の生活は地域の中で営まれていくべきであるという福祉思想が、今日の社会の主流となっています。しかし、知的ハンディがある人において、地域での生活が許せない場合があるという現実を私たちは看過できません。これは直ちに改善されなければなりません。
◇成年後見人の独断による決定がなされることがあります
兵庫県西宮市のグループホームすばる舎と社会福祉法人すばる福祉会の作業所で、25年以上生活を営んできたTMさんは、2011年12月に後見人の判断によって他の施設に居所を移されようとしました。
TMさんの両親は生前に、いつまでもすばる舎での生活が続くように望んでいました。
ところが両親の死後、姉が家庭裁判所に申立てを行い後見人がつきました。後見人は、すばる舎とのカンファレンスもないままに、入居契約の破棄と他の施設への移動の通告をしてきました。さらに、後見人は地方裁判所に人身保護請求裁判を起こしました。後見人が強権的に居所を移そうとしてことは、本人やすばる舎とすばる福祉会を負担と混乱に陥れました。
すばる舎とすばる福祉会の要請を受けた弁護士による後見人への働きかけによって、2012年5月に事態は収束し、人身保護請求権は取り下げられ、TMさんはそのままの生活を継続することになりました。
後見人が、当事者の意思に基づかずに一部の家族の意向に添って後見活動を行う例はしばしばあります。京都府で、後見人が一部家族の意向を盾にそれまで寄り添っていた居宅支援事業者を一方的に解約し、余命いくばくもない当事者を中心にした家庭への支援を断ち切りました。
当事者の重要な問題について、本人の意思や寄り添っている人の意見を無視して、後見人が独断で判断することが可能な現在の後見人制度は、知的ハンディがある人の人権や尊厳を踏みにじる危険をはらんだものとなっています。
被後見人の人権を守るかのように創られた成年後見人制度ですが、実際は一部家族の都合によって被後見人の生活は、そもそも被後見人は権利能力のない人として考えるところから成り立ちました。
今日の被後見人の法的な立場は「制限行為能力者」ですが、実際としては旧禁治産者制度における「無能力者」と変わらない扱いとなっています。
ハンディがある人が、成年後見制度によって人権や尊厳が損なわれている事実があることについて、政府、国会、裁判所、後見制度にかかわっている団体は真摯に目を向けるべきだと考えます。何よりも、当事者の人権や尊厳を守るために、当事者の意思の実現が機能するような制度の確立を私たちは求めます。
◇知的ハンディがある人の意思決定システムによる権利擁護制度の確立を
ハンディがある人は意思決定できないという旧来の思想の成年後見制度は改めるべきです。被後見人は意思を持たない無能力者であるという制度の常識が、ハンディがある人の人権と尊厳を損なう事態を導いています。十分に意思の主張を伝えることができる人が、意思を無視されて収容施設に入れられた事例もあります。
成年後見制度は人権と尊厳を守るために重要な役割を果たすと多くの人に歓迎された制度でありましたが、現実には当事者の権利を損なう制度とも言えます。
まったく意思のない人はいません。重い知的ハンディがある人も、望みを持ち意思があり、生きていく強さ(strength)を持っています。どのように重い知的ハンディがある人も何らかの意思表示を示します。
福祉の現場では、この本人の意思をくみ取って支援を行うべきであるという考え方に立って、日々、ハンディを持つ人に寄り添う実践があります。
どの人も持ち合わせている意思を最大限に実現できる生活の創造が、ハンディがある人を支える今日の人権思想の根幹といえます。このことは、2006年の国連総会において採択された障害者権利条約の思想ともなっています。
国連障害者権利条約12条には、「障害のある人が生活のあらゆる側面において他の者との平等を基礎として法的能力を享有する」とあります。法的に無能力者や制限行為能力者は存在しないという考え方です。
知的ハンディがある人は普通の市民です。他の人と同じ権利を有します。
日本政府もこの条約に署名していることからして、この精神にのっとった意思決定支援システムを確立するべきだと考えます。知的ハンディがある人が、当然に選挙権を行使できるということも含めて、本人の意思の尊重が最優先される制度の確立を要請します。
◇知的ハンディがある人の意思決定支援に複数の立場での関わりが必要です
一般的に、成年後見人には弁護士や司法書士や社会福祉士が付くことが多いものです。市民後見人が担当することもあります。制度としては複数後見も可能ですが、たいてい単独の後見人か一つの法人がつきます。一人の後見人が被後見人の全権を代行するということは、人権上問題があります。
また、成年後見人制度では高額の手数料が必要となることが多いものです。このことも成年後見人制度の一つの問題です。本人が属する福祉施設の代表者等は、利害関係者として後見人になれないとされています。
当事者の権利擁護(advocacy)には、もっとも寄り添う人の意見が尊重されるべきです。
知的ハンディがある当事者が自身の意思による人生を創りあげるには、もっとも寄り添った人を含む複数の関係者によるチームでの意思決定支援システムがあるべきだと、私たちは考えます。
◇成年後見制度が現実にどのように運用されているか検証を
以上述べたように、現在の成年後見制度は、要介護高齢者を含めて、ハンディがある人の人権と尊厳を守るために運用されていないという現実があります。成年後見制度において、人権と尊厳を奪うこととなってしまったケースの検証をするべきだと考えます。
この検証は、政府機関や関係団体それぞれによって行われるべきです。
◇早期に成年後見制度の抜本的見直しがなされることを求めます
私たちは、ハンディがある人の意思決定支援システムを確立することによって、成年後見制度は極小化していくものと考えます。すでにヨーロッパでは、意思決定支援を優先して、後見制度はラストリゾート(最後の手立て)とされています。
当事者の意思を無視されないように、その事態で不安に陥られることのないように、また、悲しい状況に追いやられないようにあらなければなりません。
後見人活動の中で、不幸に見舞われている現実があることからして、成年後見制度を抜本的に改めることは、高齢者やあらゆるハンディがある人にとって喫緊の課題であります。このための努力がなされるよう、関係機関・団体に取り組みを求めます。
◇ ◇ ◇
なお、この意見書の賛同人を募集しています。
詳しく知りたい方は、例えば、たこの木クラブのブログをご覧ください(o|o)
↓
http://blogs.dion.ne.jp/takonoki/archives/10849440.html
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