前回の「爆発系」のB君のつづきです。
☆
緊急応援ミーティングに先立って、
私はB君との研究の話し合いの内容をF君に伝えた。
すると、
「そうだったのか。B君もいろいろと苦しい経験を経て、ここに来たんだね。
そこが分からなくて、自分も随分馴れ馴れしい奴だと思って、
距離を置くようにしてきたんだけど、これからは仲間と思って接します」
と言ってくれた。
夕方に開かれた緊急応援ミーティングには、
住居のメンバー以外にも、多くの仲間が駆けつけてくれた。
廊下で偶然に対面し、最初は戸惑っていたふたりも
照れくさそうに歩み寄り、しっかりと握手をした。
メンバーの司会進行の下でミーティングがはじまり、
話し合いの補佐役を私が務めた。
「皆さんも、すでに耳に入っていると思うのですが、
昨日、住居で≪爆発事故≫が起きてふたりの仲間が被害を受けましたが、
大事に至らずに無事でした。ふたりを紹介します」。
そう言うと、参加者から拍手が沸きあがった。
「特にB君は、今回の事故を振り返り、
皆さんに伝えたいことがあるそうです。
B君は、本当にいろいろな苦労を経験し、
やっとの思いで、仲間のいる浦河にたどり着いた一人です」。
そう言うと、B君は大きな身体に首をすくめたように立ち上がり、
ゆっくりと書き溜めたノートに目をやりながら語り始めた。
「自分の自己病名はSTBB症候群です。
STBBというのは、自分がシャイで、ツッパリで、
内心はビクビクし、いつも最後には爆発していたので
頭文字を取ってつけました……」。
そう語るB君の目には、大粒の涙が光っていた。
そして、いじめや虐待の体験と精神科への相次ぐ入院によって、
閉ざされたと思った自分の人生を思い出すと、
出口の見つからなかった生きづらさの感情が、
涙とともに一気に噴き出したようにB君は泣き崩れた。
「俺と同じだな」
仲間も相次いで自分の体験を語り、B君を励ました。
こぼれる涙をぬぐいながら、
B君はノートの端に走り書きをして私の前に差し出した。
「みんなを信じてもいいんですか…」
【『べてるな人びと』 向谷地生良 一麦出版社 より】
親の当事者研究の基本。
親が子どもの問題で苦しんでいるときに、
一番苦しんでいるのは子ども自身だということを忘れないこと。
子どもは、自分で自分を助ける力があると信じること。
その力があることを、親や仲間が信じてくれないと、
子どもはその力を使うことができないということ。
私がこの二十数年の間に、関わってきた「子どもの問題」の、
97%くらいは、親の問題や、先生の問題、
つまりは大人の問題だったと改めて思います。
前々回の「国際問題」に悩む青年の話を引用したときにも、
『両親にとっては、それは意外な答えであった』
というセリフを赤字にしましたが、その意図は伝わったでしょうか。
子どもが本当は何に苦しんでいるのか、
子どもが本当はどういう希望を胸にしまいこんでいるのか、
一生懸命、子どものためにと苦しんでいる親ほど見えなくなる、
ということを、私自身、忘れないようにしたいと思います。
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