最近、自分が癌だった(?)ということを忘れてきたような気がします。
最初の手術でいくつも転移があったし、次の手術はいつごろかなと気にはしていたのだけれど、抗がん剤をやめてずいぶん時間がたち、気にしているのが面倒になってきました。
で、最近はほとんど忘れて暮らしてるので癌のことはなかったような気がしているのだけれど、癌になる前と後で決定的にはちがうのは、いろんな関係が一度切れた、ということだと思います。
どこかで死を覚悟してしまうとき、最後に守りたいと願う関係と日常は、家の娘とホームの子どもたちでした。
そこでは変わらない日常が続いているのですが、自分が「過去」にしてしまった関係や、病気で疎遠になった関係、関わりたくてももう関われないとあきらめてしまった活動など、無数の関係が、一度切れてしまったのは事実です。
むかし、三好さんの本で、寝たきりになって家から出ないようになると、「社会」との関係が切れると書いてあったけど、そんな感じに近いのかもしれません。
千葉敦子さんの言葉で、強烈に印象に残っているのは、「末期がんの状態を特別なことと思わないでほしい」という言葉です。
(そういえば、20代のころから、「自分が癌になったら…」という授業をしていたのを思い出します。
定時制高校で、教科書を持ってくる生徒がほとんどいなかったので、いつも自分の好きな本をコピーして生徒と話していたのを思い出します。
こんな授業をやってて、いつか自分が本当に癌になったら、面白い授業ができるんだろうなと思っていたものでした。
実際、癌にはなったけど、学校の仕事ははくなっちゃったからなぁ…。)
命が終わることと、関係が終わることと、人が死んでいくということは、その両方が終わることなのだと改めて思います。
わたしが、誰もがあたりまえの居場所であるべき普通学級ということにこだわるのは、その「関係」の基本だから、だと思うのです。
◇
《団欒(まどい)の中に入ることを望みながらそれを拒絶される悲しさ、これは脳性マヒ者なら誰でも持っている体験だ。
そしてそういうことの繰り返しによって、いつの間にか疎外される自分が当然だという考えに堕ちてしまう。
自らを「本来、在ってはならない存在」と規定してしまう。
「障害者」運動のむずかしさは、この障害者自身がもっている「本来、在ってはならない存在」という規定をいかに克服するかという一点にかかっていると私は思う。》(横田弘)
◇
私が「どの子も普通学級へ」という場に居続け、こだわり続けた支えの一つは、横田弘さんの言葉でした。
子どものころ、横田さんと同じ「脳性マヒ」の人を怖がり、差別してきた自分。
その自分が、「怖がられる側」に落ちていくのだと感じた一日の体験。
それに縛られながら大人になったけれど、自分はいわゆる「障害者」ではない。
《障害者自身がもっている「本来、在ってはならない存在」という規定をいかに克服するかという》運動を、わたしが担うことはできない。
では、自分に出来ることは何か。
目の前の子どもに、「自分が本来在ってはならない存在」だと、絶対に思わせてたまるか、という仕事を、わたしはしたかったんだなと思います。
《団欒(まどい)の中に入ることを望みながらそれを拒絶される悲しさ》
横田さんが書いた「団欒」とは、家族のことでしたが、たとえ家族のなかでは大切に思われていたとしても、子どもにとっては「学校」「学級」の仲間との団欒の中に入ることを望みながらそれを「拒絶」される悲しさは同じだとわたしは思います。
だから、友だちと地域の学校に行きたいと願う子どもを、誰ひとり、障害を理由に分けてはいけないのです。
特殊教育も、特別支援教育も、《団欒(まどい)の中に入ることを望みながらそれを拒絶される悲しさ》をないものとして発展しています。
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