≪「私」とか「主体」のメモ (その3)≫
「本人の意思」・「本人の納得」の形をつくること。
作り合うこと。
「注射を打ってください」は「打たないでください」
林園子さん
ここに来て間もないある夜、私は救急外来へ行った。
私は「幻聴がつらいので注射を打ってください」
と口では訴えたが、心の底では
「先生、打たないでください! ここで打ってもらったら、
いままでと同じになってしまいます!」
と叫んでいた。
先生は打たなかった。
「ここで打ったら前と同じことになるから打たないよ」
と言っていた。
それは劇的な瞬間だった。
もう症状を抑えることにこだわらなくていいんだ……と、
はじめて安心することができた。
先生は「幻聴はあっていいんだよ。
うまくつきあえるようになればいいんだよ」とも言ってくださった。
私はとても気が楽になり、この日は安心して幻聴さんと
つきあえるようになる大きな転機となった。
地元にいたころ、私にとって幻聴はあってはいけないものだった。
とにかく症状を消さなければならない、薬で、注射で、
とにかく幻聴をなくしてしまわなければいけない、と必死だった。
加えて、薬を打つとふわっとして気持ちがよかった。
どんな口実を使ってでも打って欲しいときがあった。
だから、わたしはものすごく注射に依存していた。
毎日のように打ってもらっていた。
一日に3本打ってもらったこともあった。
浦河へきて注射がなくなったことで、苦労するチャンスが生まれたと思う。
悩むチャンス、失敗するチャンスも生まれた。
そして行き詰ると仲間に相談することを始めた。
コミュニケーションをとることの楽しさ、あたたかさ、
人とつながることで安心することを、私ははじめて経験した。
それからだんだんと悩みや苦労の質が高まった。
それと同時に、苦労する権利、悩む権利、失敗する権利を獲得し、
人間が本来するべき当然の苦労を取り戻すことができたように思う。
私は、「当事者からこれらの大切なチャンスを奪わないでほしい」と
声を大にして言いたい。
・・・つねに安心とつながりを求めていたわたしにとって・・・・
「名古屋で健康でいるより、浦河で病気でいる方がずっと幸せ」
先日、ものすごい量の幻聴さんが聞こえていた。
ほんとうにつらかった。
山本賀代さんが「今日はなつひさおのどれですか」と聞いた。
「お腹がすいて疲れています」といったら、
「じゃ、このアメあげる」と言って、アメをくれた。
すると幻聴さんが静かになった。
わたしは感動した。
仲間のアメだからよかったのだ。
どんな注射や薬よりも仲間のくれたアメが、
わたしには効いたのである。
『べてるの家の「当事者研究」』(P90)
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