ワニなつノート

「学ぶ意欲がない」という評価及び「定員内不合格」の再判定を求める要望書

本日、県教委に『「学ぶ意欲がない」という評価及び「定員内不合格」の再判定を求める要望書』を提出しました。これまでの35年間に、会から受検した158人の子どもたち、計415回の受検への思いを込めて。
         
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2024年9月4日
千葉県教育委員会教育長 冨塚昌子様
              千葉「障害児・者」の高校進学を実現させる会
 
「学ぶ意欲がない」という評価及び「定員内不合格」の再判定を求める要望書
 
 
 貴職に置かれましては、障害ある子もない子も共に学ぶインクルーシブ教育の推進への御尽力に心より敬意を表します。
 
8月に実施された秋季入学者選抜においては、春の受検で3つの高校を「定員内不合格」とされた当会のYさんが入学許可となりました。これは貴職による定員内不合格をなくすための長年の取り組みによるものと感謝申し上げます。
 
 しかし残念ながら、もう一人の障害のある受検生、〇〇〇さんは合理的配慮を得て受検した面接・作文の試験によって「学ぶ意欲がない」と評価され、「定員内不合格」にされました。
 
千葉県教育委員会は、これまで定員内不合格をなくすために、「県民の信頼を損ないかねない憂慮すべき事態であり、遺憾」、「学ぶ意欲のある生徒の学びの場を確保する観点から、学ぶ意欲があると判断できる受検者を定員内不合格とすることのないよう」、高等学校校長に理解を求めてきました。
 
今回、その「学ぶ意欲」という言葉が、定員内不合格の「説明」に利用されたものであり、あまりに理不尽な対応であり、障害者差別解消法の理念を無視したものです。合理的配慮とは、「社会的障壁の除去を必要とする」障害者からの申し出によって、「行政機関等」によって「社会的障壁の除去の実施」のために認められたものです。その合理的配慮に基づく面接等によって、定員内不合格にされるのは、合理的配慮を悪用した「新たな社会的障壁」でしかありません。また、意思疎通支援の合理的配慮を受けてなお、「学ぶ意欲がない」と判断されるのは二重の障害者差別でもあります。そこで、このような理不尽な説明、定員内不合格が繰り返されないため、また障害のある人の後期中等教育を受ける権利を保障するため、以下について要望いたします。なにとぞ迅速な対応をご検討いただけますよう、お願い申し上げます。
 
             記
1・ ○○高等学校長の「学ぶ意欲がない」という評価を、定員内不合格の理由として認めた千葉県教育委員会の「説明」を取り消してください。
 
2・ ○○高等学校校長の、定員内不合格の判断を取り消し、再判定を実施してください。
 
お忙しいところ恐縮ですが9月20日までにご回答頂けるよう、重ねてお願い申し上げます。
以上
 
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【補充資料】
 
秋季入学者選抜において、○○高等学校が「障害のある受検生」に「定員内不合格」を出した理由について、8月27日に県教育委員会から説明がありました。なおその「説明」は合格発表の前日(8月26日夜)、○○高等学校校長と千葉県教育委員会で協議した内容に基づく「説明」ということでした。「定員内不合格」の説明の際、「総合的に判断した」では説明責任を果たしたことにならないため、「入学許可」の権限を持つ校長と、「設置者」の権限を持つ県教育委員会が合意した内容ということでした。そもそも合否の発表前に、校長が県教育委員会と協議して「定員内不合格」を決定すること自体にも重大な問題があると思われます。
 
今回の説明は、文部科学省の令和6年6月25日通知『高等学校入学者選抜等における配慮等について』に、「定員内でありながら不合格を出す場合には、各教育委員会等及び各校長の責任において、当該受検生に対し、その理由が丁寧に説明されることが適切です」によるものと思われますが、結論から言えば、「障害があること」が理由ではなく、「学ぶ意欲がない」という説明でした。その「障害が理由ではない」という根拠は、県教委の説明によれば、今回は『調査書(135点)、面接(150点)、作文(80点)合計365点』で評価され、学力試験はないので「学力試験の点数」による不合格ではない。つまり知的障害による「学力試験」の不利益はなく、「調査書」は「審議対象」にされていない。そして作文、面接においては、本人が希望する「特別配慮申請」(意思疎通支援のための介助者配置、カード選択による回答方法等)を認めている。したがって「障害による不利益はない」「障害が理由ではない」との説明でした。
 
今回の当会からの受検生は、二人とも今春の受検で「定員内不合格」にされながら、それでもあきらめずに8月の秋季募集を目標にがんばってきました。「学ぶ意欲のない」15歳の子は秋募集の受検などしません。その15歳の子の一人だけを「学ぶ意欲がない」と評価したのはなぜか。「学ぶ意欲がない」という「評価」は、入学試験の何によって判断されたのか。県教育委員会の説明によれば、「面接」試験の結果、3名の評価者のうち2名が「審議対象」という評価をしたこと。作文試験も同様に、2名の評価者により「審議対象」とされた。そして判定会議の結果「学ぶ意欲がない」という結論に達したため、「定員内不合格」となったと説明されました。
 
しかし、その「審議対象」にされた「作文」と「面接」は、「社会的障壁」をなくすために認められた「合理的配慮」に沿って実施されたものです。
その作文試験において、『ルールを守るということについてどう考えるか。また、高校生活でどのようにしていきたいか。400~600字以内』という課題に対し、準備した写真帳とキャプションを使って、500字以上の作文を書きあげて提出しています。「白紙」でもなく、「未提出」でもなく、「試験放棄」でもありません。では、作文の「内容」が著しく逸脱していたのでしょうか。
 
しかし、今回の合理的配慮による作文の作成過程は、予め作成されたキャプション付きの写真帳から本人が選択し書いたものです。「キャプション」そのものは、予め準備されたものであるから、著しく課題と無関係な文章は書きようがありません。課題にそっての評価の余地は残るかもしれませんが、その点を考慮しても、そもそも「作文」という課題が、自らの言葉で文章を作成することが困難であるという「不利」な課題(社会的障壁)であり、その「社会的障壁」をなくすために、「キャプション」の選択という「合理的配慮」が認められて実施していることを考えれば、「本人の学ぶ意欲がない」とまで判定することは理不尽であり、「障害による不利益」そのものです。また、先の文科省通知=「学ぶ意欲を有する生徒に対して、学びの場が確保されることは重要であり、そうした観点から、各教育委員会等においては、「令和5年度高等学校入学者選抜の改善等に関する状況調査(公立高等学校)」等を通じて、定員内不合格を出さないよう取り扱っている例を含め、他の教育委員会における入学者選抜の実施方法等を参照するなどしていただくとともに、合理的な説明となっているかについて改めて御検討いただくようお願いします。」の主旨に反する説明でもあります。
 
「面接」の評価についても同様です。面接においても、社会的障壁をなくすための合理的配慮として「意思疎通支援」のための介助者が認められ、質問に対し「〇(はい)×(いいえ)△(どちらでもない・回答したいが〇×では説明することが困難である)」の3つのカード(マグネット)の選択によって本人が回答する、という配慮も認められています。実際の面接ではカード選択では回答ができない質問(その理由を述べなさいという趣旨)が繰り返されたため、やむを得ず意思疎通支援者が面接官の了解を得ながら、わかりやすく質問を繰り返し、カードによる回答を行いました。したがって、すべての質問に、本人の意思を示す回答が示されました。この面接の評価においても二人の評価者が「審議対象」という評価を行ったため、判定会議で検討した結果、「本人の学ぶ意欲がない」という結論になったと説明がありました。しかし意思疎通支援のための合理的配慮を利用した面接において、「学ぶ意欲がない」と評価し、「定員内不合格」にすることは、形式的に合理的配慮を提供した上での排除であり、悪質な障害者差別です。
 
平成11年から学力検査を用いないことが認められるようになったのは、「生徒の多様な能力,適性等を多面的に評価する」ためであり、「選抜方法の多様化や評価尺度の多元化を図るため」(高等学校入学者選抜について(通知)文初高第243号 平成9年11月28日)のものでした。けっして定員が空いている状況で、障害児者を排除するためではありません。
 
当会では発足以来35年間で158人の子どもたちが、累計415回の受検に臨みました。定員内不合格の被害者は46人(110回)になりますが、後に40人が合格し38名が卒業しています。この数字は、定員内不合格の被害に合いながらもあきらめず受検する子に、「学ぶ意欲がない子はいない」ことの証でもあります。渡邊純さんは7年の受検で27回の不合格(定員内不合格25回)にされましたが、最期まで「学ぶ意欲」を失うことも、あきらめることなく、高校生になる希望を持ち続けながら、志半ばで亡くなりました。
 
また当会の調査をもとに算出した資料によれば、千葉県の定員内不合格被害者数は、この30年間で4986人にもなります。一方、東京、神奈川は0人です。これらの数字も、定員内不合格の理由として、「学ぶ意欲がない」という説明がいかに根拠のないものかを示しています。
 
社会的障壁とは、「障害のある方にとって、日常生活や社会生活を送る上で障壁となるような、社会における事物、制度(利用しにくい制度など)、慣行(障害のある方の存在を意識していない慣習、文化など)、観念(障害のある方への偏見など)その他一切のもの」(内閣府)と説明されていますが、今回の「定員内不合格」の説明と判断は「社会的障壁」そのものであり、「裁量権の逸脱」であり無効であると考えます。
 
拠って、8月27日の県教育委員会の説明の「学ぶ意欲がない」という評価の取り消し、および、「定員内不合格」という校長判断の見直しを求めます。
以上
 
 
 
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