ワニなつノート

《旭川報告》⑥    《26年前の物語》

「どうして急に学校に行こうって思ったの? 訪問教育で十分って言ってたのに」

「声が聞こえたの。ここにいたいって」

 

「でも、なにもしゃべらない、よね」

「そうね、泣き声もたてないし、こんな声があるってはじめて気づいたかも」

 

「どんな声だったの?」

「どんな声? そうね、みんながいる、みんながいる、みんながいるね~って、そんな弾んだ声だった」

 

「それ、こえ?」

もう一度そう尋ねると、彼女は自分の両手を開いて見つめた。

「この手をとおして聞こえた声、だったのかな。生まれてからずっと病室にいたから、聞いたことのない声だった」

 

    □

赤ちゃんにみえるくらい小さなその子を抱いて、新一年生になる子どもたちとの「一日入学体験」から帰った夜、その人は「ふつう学級」と決めた。

 

その人の目に映ったもの、子どもたちのつながりの安全領域、響き合い、交じり合う子どもたちの声とこの子の声。「ここに居てはいけない」子どものいない世界。

その世界を、言葉にしてみたいと思ってきた。自分のために。

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「ようこそ就園・就学相談会へ」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事