「どうして急に学校に行こうって思ったの? 訪問教育で十分って言ってたのに」
「声が聞こえたの。ここにいたいって」
「でも、なにもしゃべらない、よね」
「そうね、泣き声もたてないし、こんな声があるってはじめて気づいたかも」
「どんな声だったの?」
「どんな声? そうね、みんながいる、みんながいる、みんながいるね~って、そんな弾んだ声だった」
「それ、こえ?」
もう一度そう尋ねると、彼女は自分の両手を開いて見つめた。
「この手をとおして聞こえた声、だったのかな。生まれてからずっと病室にいたから、聞いたことのない声だった」
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赤ちゃんにみえるくらい小さなその子を抱いて、新一年生になる子どもたちとの「一日入学体験」から帰った夜、その人は「ふつう学級」と決めた。
その人の目に映ったもの、子どもたちのつながりの安全領域、響き合い、交じり合う子どもたちの声とこの子の声。「ここに居てはいけない」子どものいない世界。
その世界を、言葉にしてみたいと思ってきた。自分のために。