忘れ去られた物語のシリーズは、東洋文庫「説経節」で、荒木繁・山本吉左
右五両先生が、編集し校注を加えた、小栗判官、山椒太夫、苅萱、信徳丸、
愛護の若、ないしは信太妻を除き、江戸時代末期の説経祭文では、既に演じ
られていなかっただろうと思われる古説経節を読む試みである。
このシリーズを始めたきっかけは、直接に400年前の版本を読解した「阿弥
陀胸割」(国文研)http://www.nijl.ac.jp/pages/database/であるが、シリーズ2
から7までの説経節は、「説経正本集」を読解して、さらに翻訳したものである。
「説経節正本集」:横山重編 角川書店 全三巻
シリーズ2から7は、第一集に収められている物語である。といっても、この翻刻
は、まったく原文の通りであり、文言に関する注釈はまったく無いので、これらの
説経を読み進めることは、かなりの難行である。特に、仏教用語に無学な者にと
っては、解読しきれない文言を数多く残しているのが現状である。又、誤訳の
可能性もぬぐいきれないので、お気づきの点があれば、遠慮無くご教授いただきたい。
しかし、その中でも、猿八座の稽古場である新潟県新発田市真中の東光寺住職さんに
は、難解な経文に関して、常に明確なご示唆を戴き、大変感謝をしている。この
場を借りて、改めて御礼申したい。(合掌)
さて、「説経節正本集第一」に収録されている説経節は以下の通りである。
※は、本シリーズで翻訳したもの。同じ題材の正本は、年代の古い方を中心に
読み、年代の新しい物を参考として読み比べた。
一 さんせう太夫(天下一説経与七郎)
二 せっきょうさんせう太夫(同上)
三 さんせう太夫(寛文七年山本久兵衛板)
四 山庄太輔(佐渡七太夫豊孝)
五 せっきょうしんとく丸(天下無双佐渡七太夫)
六 しんとく丸
※七 熊野之御本地(江戸板)
八 ごすいでん(佐渡七太夫豊孝)
※九 まつら長者(寛文元年山本久兵衛板)
十 まつら長者(江戸うろこかたや板)
十一 しゃかの御本地(天満八太夫) ※ジャータカ物語とほぼ同じであるので翻訳はしなかった。
※十二 熊谷先陣問答(天満八太夫)
十三 熊谷先陣問答(佐渡七太夫豊孝)
※十四 越前国永平寺開山記(結城孫三郎)
※十五 尾州成海笠寺観音之御本地(天満八太夫)
※十六 大福神弁財天御本地(天満八太夫)
付録一 さんせう太夫物語(草子)
付録二 をくり(宮内庁御物絵巻)
付録三 せっきょうかるかや(写本)
以上
第一集はひとまず終わりとし、次に第二集の読解に取り組むことにする。