今回から新シリーズ「我が国におけるセルフケアの課題と展望」について考えていきましょう。
今回は、個々人のセルフケアを決定する要因についてです。
日本の医療保険制度は疾病の治療のみを対象としているため、疾病の予防や健康づくりは各個人に委ねられてきた。 個々人のセルフケアはさまざまな形で実行されており、各個人間の質的な差は大きい。 個々人のセルフケアの質を決定する重要な要因には、個々人のヘルスリテラシーと、社会住民全体の平均的セルフケアレベルがある。
個々人のセルフケアは、その人のヘルスリテラシーのレベルに依存する。 ヘルスリテラシーの高い人は、健康的な生活習慣の維持に努め、健康診断やがん検診などへ参加する傾向が高い。 一方、ヘルスリテラシーの低い人は、非健康的な生活習慣を放置し、健康診断やがん検診などへの参加割合は低い。 ヘルスリテラシーの低い人は、病気を発症しても医療機関に正式に受診せずに、高額で根拠の乏しい民間療法などに流れるリスクも高い。 ヘルスリテラシー向上のためには、義務教育から成人・高齢者までも網羅した、生涯にわたる健康教育が重要である。 ただし、ヘルスリテラシーの高い人が必ずしもセルフケアの質が高くならないことも多い。 「医者の不養生」がその典型例である。
個々人のセルフケアの質を決定する重要な要因として、社会全体の平均的セルフケアレベルも重要である。 疾病の原因となる危険因子の分布は、全体で一つの「かたまり」として動く。
社会全体の平均的セルフケアレベルが高ければ、個々人のセルフケアの質も高くなる。 逆に、社会全体の平均的セルフケアレベルが低ければ、個々人のセルフケアの質も低くなる。 後に述べる住民戦略(population strategy)を用いると、社会全体の平均的セルフケアレベルを高めることにより、個々人のセルフケアの質も良くなる。
今回はこの辺で、続きは次回に。