前回の続きで、今回は予防医学の戦略について考えていきましょう。
疾病の頻度は、その総人口の全体分布の中で決定される。
疾病の発症数の絶対数という頻度から見ると、危険因子の分布の極値グループより、人口数の多い「危険因子は軽度~中等度のレベル」グループのほうが多い。 例として、日本人における脳卒中の発症患者数の絶対数で見ると、むしろ普段の血圧が120~140mmHgの群のほうが、140mmHg以上の群より多い。
これまでわが国では、予防医療の戦略では「高リスク戦略(high risk strategy)」が中心であった。 この戦略の前提は、「健康人と患者との境界線は明瞭である」とされている。 この境界線により、疾病(または危険因子)のある患者個人に焦点を当てて、治療や予防的介入が行われてきた。 一方で、ある個人が病気になったのは、他の人々には責任はないとされていた。 健康群と患者群は分離独立した互いに無関係な存在のように見なされ、個人の自己管理責任が追及されてきた。
住民が日々健康づくりに励むことができるためには、住民戦略(population strategy)が有効である。 この戦略は、Roseが提唱した、「個々人が疾病になるのは社会全体にも要因がある」というものである。 この戦略は、「高リスク戦略」とは対照的である。 疾病発症の包括的責任は、住民全員にあるのである。 脳卒中の予防には、数千万人を対象に早期の集団的対策、すなわち住民戦略が必要となる。
住民戦略は、社会全体に対しての予防的対策を導入することで、社会全体として人々の健康を改善するという戦略である。 リスクの高い個人を直接ターゲットにする高リスク戦略に対して、集団全体にかかるリスクを低いほうへ誘導する戦略である。 住民戦略は有効な予防医学の戦略であることが示されている。 すでに危険因子(生活習慣病)を所有する患者のみならず、国民全体がその生活習慣を改善させていけるための施策を導入することになる。 最近、厚労省が作成した「健康日本21」でも、この戦略が主流となっている。
今回は以上です、続きは次回に。