循環器フィジカル・ケース1
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症例1
50歳男性
主訴:意識障害
糖尿病で外来通院中の患者。以前よりインスリン自己注射を行っていた
喫煙歴あり。今回、予約外の外来の受付窓口にて突然倒れ、救急室へ搬送された
顔色が悪く、多量の冷汗を認めていた。
バイタルサイン:血圧 90/75 mmHg、脈140 /分、呼吸 20/分、体温 36.0度
意識レベルはJCSで III-100 (半昏睡)
身体所見上、頸静脈怒張あり(頸静脈圧上昇+)
心臓の聴診で S3+
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ピットフォール
担当医は、冷汗も認めたことから、インスリン使用中による低血糖の発作ではないかとの判断で、簡易血糖チェックを指示しブドウ糖静注の準備を開始した。
しかしながら、簡易血糖チェックでは、血糖値200 mg/dlと低血糖は認めなかった。
その後の経過と解説
低血糖では、インスリン拮抗ホルモンとしてのカテコラミンを瞬時に放出するため、交感神経活動が亢進する。
そのため、頻脈と心筋収縮力の増大(心臓の駆出量の増大)をきたし、バイタルサインでは、収縮期血圧はむしろ上昇し脈圧も拡大することが多い。
この患者では、血圧上昇に加え、90-75=15と脈圧が低下しており、低心駆出量状態low stroke volumeが考えられる。
一般的に脈圧が収縮期血圧の25%未満であれば、低心駆出量状態を示唆する。
この症例ではまた、頸静脈圧の上昇を認めた。
脱水や出血による低用量性ショックでは、頸静脈圧は低下するため、頸静脈圧の上昇をみるショックを考えるべきとなる。
さらには身体所見より多量の冷汗を認めており、糖尿病患者で冷汗をかくもうひとつの病態として、急性心筋梗塞(急性冠症候群)も考えるべきとなる。
意識障害もショックによる2次的なものと判断される。
心臓の聴診でS3ギャロップを認めていた。
30歳以上でS3ギャロップの存在は、左室拡張末期圧の上昇を意味する。
これは左心不全や心原性ショックで認められる所見であり、重要な所見である。
この症例ではただちに心電図検査が施行され、前胸部誘導の広範囲でST上昇があり、広範前壁の急性心筋梗塞による心原性ショックの診断となった。
緊急で経皮的冠動脈インターベンション等の治療を行い軽快した。
最終診断:急性心筋梗塞による心原性ショック
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